法律コラム

Q&A<独占禁止法・下請法対応>取適法で手形払いは禁止に?2026年改正の実務チェックを弁護士が解説

よくある相談

  1. 下請法の改正によって、手形払いが禁止されるって、本当ですか?
  2. 手形払い以外にも、ファクタリングや電子記録債権も禁止されますか?
  3. 手形払い等が禁止される場合の注意点を教えてください。

取適法(中小受託取引適正化法)とは?

 近年、労務費・原材料費・エネルギーコストが急激に上昇する中で、発注者と受注者が対等な関係を築き、サプライチェーン全体で適切に価格転嫁を定着させる、いわゆる「構造的な価格転嫁」の実現が求められています。

 こうした状況を踏まえ、受注者に一方的な負担を押しつける商慣習を是正し、取引の適正化と価格転嫁の徹底を図るため、下請法が改正され、2026年1月1日から取適法(中小受託取引適正化法)が施行されることになりました。

 この改正に伴い、下請法に関連する法律の題名や用語が以下のとおり、変更されます。

  1. 下請代金支払遅延等防止法(略称:下請法)
    →製造委託等に係る中小事業者に対する 代金の支払の遅延等の防止に関する法律
    (略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)
  2. 下請代金
    製造委託等代金
  3. 親事業者
    委託事業者
  4. 下請事業者
    中小受託事業者

 取適法は、製造委託等に関し、中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等を防止することによって、委託事業者の中小受託事業者に対する取引を公正にするとともに、中小受託事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与することを目的としており、委託事業者の義務や禁止行為を規定しています。

 委託事業者の義務には、①中小受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等、②書類の作成・保存義務、③製造委託等代金の支払期日を定める義務、④遅延利息の支払義務があります。

委託事業者の禁止行為

 取適法は、中小受託事業者の利益を保護することを目的として、委託事業者の禁止行為を定めています。禁止行為は、以下のとおりです。

  1. 受領拒否の禁止(5条1項1号)
  2. 製造委託等代金の支払遅延の禁止(5条1項2号)
  3. 製造委託等代金の減額の禁止(5条1項3号)
  4. 返品の禁止(5条1項4号)
  5. 買いたたきの禁止(5条1項5号)
  6. 購入・利用強制の禁止(5条1項6号)
  7. 報復措置の禁止(5条1項7号)
  8. 有給支給原材料等の対価の早期決済の禁止(5条2項1号)
  9. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(5条2項2号)
  10. 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(5条2項3号)
  11. 協議に応じない一方的な代金決定の禁止(5条2項4号)

製造委託等代金の支払遅延の禁止(5条1項2号)とは?

 取適法では、「製造委託等代金を支払期日の経過後も支払わないこと」を禁止しています。これは、支払遅延によって中小受託事業者の資金繰りが悪化し、従業員への賃金や材料費の支払いが困難になることを防ぎ、事業者の経営を安定させることを目的としたものです。

 まず、支払期日は、受領日から60日以内(受領日を含む)で、かつ、可能な限り短い期間で設定することが求められています(取適法3条1項・2項)。

 そのうえで、支払遅延と判断されるケースは、支払期日の定め方に応じて次の3つに分類されます。

  1. 受領日から60日以内に支払期日を定めている場合:
    その支払期日までに代金を支払わなかったとき
  2. 支払期日を定めていない場合:
    受領日当日までに代金を支払わなかったとき
  3. 支払期日を60日超で定めている場合:
    受領日から60日目までに代金を支払わなかったとき

*なお、3の場合は支払遅延に該当する以前に、「支払期日を60日以内で、かつ可能な限り短く設定する義務」に違反していることになります。

支払遅延の禁止の具体例

 取適法では、製造委託等代金の支払期日を過ぎても支払わないことが禁止されています。実務上、以下のような場合には「支払遅延」に該当するとされています。

① 支払日が金融機関の休業日に当たるケース

 支払期日が金融機関の休業日に当たる場合であっても、事前に「翌営業日に繰り延べる」旨を書面で明確に合意していない限り、当初定められていた支払期日までに代金が支払われなければ支払遅延と判断されます。つまり、金融機関が休業していることを理由として、一方的に支払日を延長することは認められません。

② 検収が遅れた結果、受領日から60日以内に支払われないケース

 「毎月末日検収締切、翌月末日支払」といった検収締切制度を採用している場合であっても、検収に時間を要したことにより、結果的に給付の受領日から60日目までに代金が支払われないのであれば、取適法上の支払遅延となります。
 検収期間が長引いたことは、支払期日を延ばす正当な理由にはならないとされています。

③ 請求書の提出遅れを理由に支払わないケース

 中小受託事業者が役務を提供済みであるにもかかわらず、請求書の提出が遅れたことを理由として、事前に定めた支払期日までに代金を支払わない場合も支払遅延に該当します。
請求書が期日までに提出されなかったとしても、役務の提供が完了している以上、発注者は支払期日どおりに支払わなければならないと考えられています。

手形払い等の禁止の内容

 改正前の下請法においては、親事業者が手形を交付することによって下請代金を支払った場合に、割引を受けようとした下請事業者が金融機関において手形の割引を受けられない場合には、支払遅延に該当するものとして、違法であるとの運用がなされていました。

 もっとも、支払手段として手形等を用いることにより、発注者が受注者に資金繰りに係る負担を求める商慣習が続いており、中小受託事業者の利益が害されている状況が続いていました。

 そこで、中小受託事業者の保護のため、取適法においては、手形払を一切認めないこととし、また、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものを使用する行為も、禁止されました。

◆ 手形払いの禁止

 製造委託等代金の支払について、「手形を交付すること」が禁止されます。ここでいう「手形」には、名目を問わずあらゆる手形が含まれると解されます。

◆ 一括決済方式(債権譲渡担保・ファクタリング)や電子記録債権の利用制限

 一括決済方式(債権譲渡担保・ファクタリング)や電子記録債権という支払手段については、支払期日までに製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難である場合に、支払遅延と評価され、取適法違反となります。

 具体的に支払遅延とされるのは、以下の場合です。

  1. 一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が代金の支払期日より後に到来する場合において、 中小受託事業者が代金の支払期日に金銭を受領するために、当該支払手段を担保に融資を受けて利息を支払ったり、割引を受けたりする必要があるもの
  2. 一括決済方式又 は電子記録債権を使用する場合に、中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる 受取手数料等を負担する必要があるもの

手形払い等の禁止~企業が対応で抑えるべき3つの視点

① 手形払いの全面禁止を前提とした契約・商慣行の見直し

 取適法では、名称を問わずあらゆる手形による支払が一切禁止されました。これまで「手形払い」を当然の商慣行としてきた業界も少なくありませんが、今後は契約書や発注書に手形払いの条項が残っているだけでリスクとなります。まずは契約条項や取引条件を精査し、金銭払いを前提とした内容に改訂することが必要です。

② 電子記録債権・ファクタリング利用時の適法性チェック

 電子記録債権やファクタリングは、形式上は手形に代わる支払手段と見なされがちですが、支払期日までに受注者が満額を受領できない場合は取適法違反となります。企業は、これらの手段を用いる際に「満額・期日払いが担保されているか」を必ず確認する必要があります。

③ 社内フローと資金繰り管理の再構築

 手形払いが禁止されたことで、発注者自身も現金決済を前提とした資金繰りの確保が必要となります。従来の「手形を発行すれば資金繰りは一時的に先送りできる」といった発想は通用しなくなります。

 したがって、経理部門や財務部門において、現金払いに対応できる資金繰り計画をあらかじめ構築し、支払処理が滞りなく進むようフローを再設計することが不可欠です。

弁護士法人かける法律事務所における取適法対応のサポート

 2026年1月の改正により、取適法の規制対象や禁止行為は、広がります。発注者・受注者の双方にとって「どこまで対応が必要か」「契約書や社内体制をどう変えるべきか」を早めに整理しておくことが重要です。

 弁護士法人かける法律事務所では、以下のようなサポートを提供しています。

① 契約書・取引スキームのリーガルチェック

  • 改正後の「従業員数基準」や「特定運送委託」の追加などを踏まえ、自社が規制対象となるかを判定。
  • 委託契約書や基本契約の内容を精査し、禁止行為(協議に応じない一方的な価格決定、手形払等)に抵触しない条項へ修正。
  • 実際の取引スキームが取適法に沿っているかを検証し、改善提案を行います。

企業のメリット:

  • 不意に「法違反リスク」を抱えることを防ぎ、安心して取引を継続できます。

② 価格交渉・価格転嫁の実務サポート

  • コスト上昇分を価格に反映するための「協議の進め方」について、法的観点からアドバイス。
  • 発注者側企業には、受注者からの協議要請にどう対応すべきか、社内ルール作成を支援。
  • 下請代金の引下げやコスト上昇における引上げ価格の検討・プロセスについて、法的観点からアドバイス。

企業のメリット:

  • 法に沿った適正な交渉ができ、長期的に安定した取引関係を構築できます。

③ 社内研修・コンプライアンス体制の構築

  • 経営層・購買担当者向けに「取適法対応セミナー」を実施。
  • 違反事例や実務上のリスクを共有し、現場担当者が実践できるチェックリストを提供。
  • 法改正に合わせた社内マニュアル・ガイドラインの整備もサポート。

企業のメリット:

  • 現場の担当者レベルまで法改正の理解を浸透させ、違反リスクを未然に防止できます。

独占禁止法・下請法対応は、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

 紛争やトラブルを未然に防止し、健全な企業体質をつくって、経営に専念できる環境を整備するためにも、顧問契約サービスの利用について、是非、一度、ご検討ください。

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野呂 朱里

このコラムの執筆者

弁護士野呂 朱里Akari Noro

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