法律コラム

Q&A<知的財産権・著作権トラブル対応>著作者人格権の侵害対応について弁護士が解説します。

2024.04.22

よくある相談例

  1. 日常的に著作物を取り扱う業務を行っているが、一部改変したい。
  2. SNSで投稿したイラストや写真が、他のユーザ―に勝手に改変されて使用されている。
  3. 他人の著作物を利用したことに関して、著作者人格権を侵害したとして通知書が届いた。

著作者人格権とは?ー著作権との違いー

 ある著作物を創作した人(著作者)は、当該著作物に関して、大きく分けて「著作権」と「著作者人格権」という2つの権利を有します。最近、「著作権」だけでなく「著作者人格権」もよく耳にする言葉だと思いますが、その内容についてよく知らない方も多いのではないでしょうか。

 「著作権」とは、著作物の利用から生じる経済的利益を保護する権利です。例えば、著作物を複製する権利(複製権)や著作物を公衆に伝達する権利(公衆送信権)等が著作権に含まれます。

 他方で「著作者人格権」とは、著作物に対する著作者の思いやりやこだわりを保護する権利です。著作者は、著作者人格権に基づき、著作物をいつどのように公表するかを自分で決めたり、著作物の内容を他人に無断で改変されない権利を有します。

 このように、「著作権」は著作物の経済的価値を保護する権利であるのに対し、「著作者人格権」は著作者の精神的利益(著作物に対する思い入れやこだわり)を保護する権利です。両者は保護しようとする利益が異なります。

著作者人格権の種類

 「著作者人格権」の種類ですが、著作権法上、以下の4つのものが定められています。

1.公表権

 公表権とは、著作者が、自己の未公開の著作物につき、それを公開するかどうか、また、いつどのような方法で公表するかを自分で決定することができる権利です(著作権法18条1項)。

 例えば、まだ公開されていない他人の絵画や小説等の作品を、クリエイターに無断で公開した場合、原則として、クリエイター(著作者)の公表権を侵害することになります。

 もっとも、他人の未公開の著作物を公表する場合でも、一定の場合(公表に対する同意が推定される場合、情報公開法による制限がある場合等)には、著作者の公表権が制限されることがあります(著作権法18条2~4項)。

著作権法18条(公表権)1項

 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

2.氏名表示権

 氏名表示権とは、著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、著作者の名前を表示するかどうか、名前を表示するとしてどのような名前を表示するか(実名を表示するか、変名(ペンネーム)を表示するか)を決定することができる権利です(著作権法19条1項)。

 例えば、小説作家が、自己の作品を書籍として販売する際にペンネームでの販売を希望していたにもかかわらず、販売業者が実名を表示して販売した場合、原則として、作家(著作者)の氏名表示権を侵害することになります。

 もっとも、公表権の場合と同様、一定の場合(既存の表示に従って著作者名を公表する場合、著作者名の省略が著作者の利益及び公正な慣行に反しない場合等)には、著作者の氏名表示権が制限されることがあります(著作権法19条2~4項)。

著作権法19条(氏名表示権)1項

 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

3.同一性保持権

 同一性保持権とは、自己の著作物の内容やタイトルについて、著作者の意思に反して改変が加えられることを禁止することができる権利です(著作権法20条1項)。

 例えば、他人が制作した楽曲について、作曲家や作詞家(著作者)の同意なく無断でメロディーや歌詞を改変して公開した場合、原則として、作曲家や作詞家(著作権者)の同一性保持権を侵害することになります。

 もっとも、著作物の性質や利用目的・態様に照らしてやむを得ない改変については、著作者の同一性保持権が制限されることがあります(著作権法20条2項)。

著作権法20条(同一性保持権)

 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

4.名誉・声望侵害行為

 著作権法は、著作者人格権として上記3つの権利(公表権・氏名表示権・同一性保持権)を明示的に定めていますが、これらのいずれかの著作者人格権の侵害に至らない場合であっても、著作者の名誉や声望を害する方法で著作物を利用する場合には、著作権人格権の侵害とみなされます(著作権法113条11項)。

 この条項の適用例はそれほど多くはありませんが、適用を認めた裁判例も実際にあります。

著作権法113条(侵害とみなす行為)11項

 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

著作者人格権が侵害されたときの対応方法

 著作者人格権が侵害された場合の救済措置としては、大きく分けて、民事的救済と刑事的救済の2つがあります。以下、それぞれの内容について説明します。

1.民事的救済について

 著作者人格権が侵害された場合の民事的救済については、主に、以下の3つの救済手段があります。

①損害賠償請求

 著作者人格権が侵害された場合、著作者は、侵害者に対し、それによって生じた損害の賠償を請求することができます(民法709条・710条)。著作者人格権は著作者の精神的利益を保護するものであるため、損害としては慰謝料を請求することになります。

②差止請求権

 著作者人格権が侵害されている場合や侵害されるおそれが生じている場合、著作者は、侵害者に対し、侵害行為の差止め(停止・予防)を求めることができます(著作権法112条)。

 仮に損害賠償のみしか認められないとなると、侵害者は、事後的に損害賠償(金銭の支払)さえすれば著作権や著作者人格権の侵害行為を継続することができることになってしまうことから、損害賠償のみならず、差止請求権が認められています。

著作権法112条(差止請求権)
 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

③名誉回復措置請求権

 著作者人格権が侵害されている場合、著作者は、侵害者に対し、侵害行為によって毀損された名誉や声望を回復するための措置を求めることができます(著作権法115条)。例えば、侵害者による事実公表や訂正等が具体例として挙げられます。

著作権法115条(名誉回復等の措置)
 著作者又は実演家は、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。

2.刑事的救済について

 著作権法は、著作者人格権の侵害について、刑事罰(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金)を定めています(著作権法119条2項1号)。

 また、著作者人格権の侵害については親告罪となっており、刑事罰が科されるためには、被害者(著作者)による告訴が必要になります(著作権法123条1項)。

 そのため、著作者人格権の侵害について、刑事告訴を行って刑事罰を求めることも考えられます。もっとも、刑事告訴には犯人が知ってから6か月という期間制限があるため、注意する必要があります(刑事訴訟法235条1項)。

著作権法119条2項
次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者(第百十三条第八項の規定により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

著作権法123条
第百十九条第一項から第三項まで、第百二十条の二第三号から第六号まで、第百二十一条の二及び前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

刑事訴訟法235条本文
親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。

著作者人格権が問題となった裁判例

 以下、著作者人格権の侵害が問題となったケースについて、実際の裁判例をいくつか紹介します。

著作者人格権が問題となった裁判例①
(ときめきメモリアル事件)ー著作者人格権の侵害を肯定ー

 少し古い裁判例になりますが、ゲームソフトの同一性保持権に関して判断した裁判例として、「ときめきメモリアル」事件(最判平成13年2月13日)を紹介します。

1.事案

 PC用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」といいます。)の著作者である被上告人(ゲーム会社)が、本件ゲームソフトのストーリーの内容を改変した形で遊ぶことのできるメモリーカードを輸入、販売した上告人(業者)の行為について、被上告人が、本件ゲームソフトの同一性保持権を侵害するものであると主張して、慰謝料を請求した事案です。

2.判旨

 「本件ゲームソフトの影像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法二条一項一号にいう著作物ということができるものであるところ、前記事実関係の下においては、本件メモリーカードの使用は、本件ゲームソフトを改変し、被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。ただし、本件ゲームソフトにおけるパラメータは、それによって主人公の人物像を表現するものであり、その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ、本件メモリーカードの使用によって、本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに、その結果、本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらすことになる。」

 本件メモリーカードは、「その使用によって、本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ」、「上告人は、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上、上告人は、現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ」、他方、「本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると、本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたということができ、上告人の前記行為がなければ、本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた上告人は、他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、被上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。」

3.ポイント

 この事案では、著作物であるゲームソフトのプログラム自体に改変が加えられたわけではなく、外部からメモリーカードを使用することによってゲームの内容を変えることができる状態が惹起された場合に、ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたといえるかが問題となりました。

 この点、最高裁は、結論として同一性保持権の侵害を肯定しましたが、その理由として、本件ゲームソフトの具体的なストーリーの内容を認定した上で、メモリーカードによって、本件ゲームソフトの内容(ストーリー)として本来予定されている範囲を超えて改変が行われた点を捉えて、同一性保持権が侵害されるとを判示した点がポイントといえます。

著作者人格権が問題となった裁判例②
(リツイート事件)ー著作者人格権の侵害を肯定ー

 次に、最近の重要な裁判例として、 ツイッター(現X)上でのリツイート行為について著作者人格権の侵害が問題になったリツイート事件(最判令和2年7月21日)を紹介します。

1.事案の概要

 写真家である被上告人が、著作権者として自己の氏名を隅に表示した写真(以下「本件写真」といいます。)をツイッター(現X)上で投稿しました。その後、氏名不詳者Aが、被上告人に無断で、本件写真を含むツイートを投稿し、さらに、氏名不詳者Aのその投稿を、氏名不詳者Bらがリツイートしました。そして、氏名不詳者Bらによるリツイートの際、ツイッターの仕様により、本件写真の一部がトリミングされて表示されたため、被上告人が著作権者として表示した氏名の表示が見えない状態で本件写真がリツイートされました(本件写真の氏名の表示が見えなくなった状態でリツイートされましたが、リツイートに表示された画像のリンクを押すと、氏名の表示も含んだ本件写真全体を閲覧することができるという状態)。

 被上告人は、氏名不詳者Bらのリツイートによって、自分の氏名の表示部分が見えない状態で本件写真が公衆に発信されたことから、被上告人の氏名表示権が侵害されたと主張し、ツイッター社(現X社)に対し、氏名不詳者Bらの発信者情報の開示を求めました。

2.判旨

 「被上告人は、本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが、本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより、本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである。」 

 「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば、本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても、本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり、本件各ウェブページを閲覧するユーザーは、本件各表示画像をクリックしない限り、著作者名の表示を目にすることはない。また、同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると、本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば、本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって、本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。」

 「以上によれば、本件各リツイート者は、本件各リツイートにより、本件氏名表示権を侵害したものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。」

3.ポイント

 本件では、ツイッター(現X)での写真画像のリツイートについて、ツイッターの仕様が理由で元画像がトリミングされて表示されてしまったという事情を踏まえてもなお、そのリツイート行為によって元写真(著作物)が改変されて公衆に発信されたとして、著作者人格権(氏名表示権)の侵害を認めました。最高裁では判断されていませんが、その前の高等裁判所では、本件写真についての同一性保持権の侵害が認められています。

 本判例を踏まえると、今後、Xにおいて画像を含む投稿のリポストを行う際には、著作者人格権の侵害行為となってしまうことを避けるために、画像の出所や著作者名の表示があるか等について、事前に確認をしておくのが無難ということになります。

弁護士による著作者人格権の侵害対応

1.裁判外での交渉対応

 著作権や著作者人格権の侵害を理由に著作権者から警告を受けた場合、1週間又は2週間と回答期限を決められて、対応を求められることがあります。
しかし、著作権法や著作権トラブルについて知識や経験がなければ、適切な対応方法がわからず、誤った対応を行ってしまうことがあります。

 例えば、著作権や著作権人格権を侵害していないにもかかわらず、侵害の事実を認めたり、高額な金銭を支払ってしまうこともあります。また、大した問題でないと考えて放置していると、民事裁判が起こされることもあります。

 裁判外で警告を受けた場合、著作権に精通している弁護士に相談し、侵害の有無や損害賠償額の相場を確認することが、思わぬデメリットを回避するためには重要です。

 ケースによっては、弁護士に代理交渉を依頼することも効果的です。弁護士に代理交渉を依頼することによって、減額交渉や、民事裁判とならないような形で交渉を行うことができます。また、回答書や示談書の作成も専門的な知識が必要となり、負担も大きいため、弁護士に依頼することで、その負担を軽減できます。

2.民事訴訟への対応

 著作権や著作者人格権を侵害したとして民事訴訟を起こされた場合、その対応が必要となります。民事訴訟に対応しないと、相手方の請求がそのまま認められてしまい、判決が確定してしまいます。

 民事訴訟を提起された場合には、裁判に出廷し、また、証拠の精査や主張書面の作成が必要になるため、これらを自分でやるとしても労力や時間を要しますし、著作権法や訴訟の知識や経験がなければ、困難な作業といえます。そのため、著作権法・訴訟対応の専門家である弁護士に依頼する方が、効率的に、また、負担が少なく解決可能です。

3.著作権に関する契約書のリーガルチェック

 著作権に関する契約書をチェックするためには、著作権法の知識や理解が必要となります。

 著作権や著作者人格権に関するルールを知らないまま、契約書を作成したり、締結したりする場合、著作物を自由に利用できなかったり、また、意図に反して、著作権や著作者人格権を行使できなくなったりすることがあります。著作物に対する思いは、著作者や著作物によって異なります。著作権に関する契約によって、不利益を受けたり、想定外のリスクが発生しないように、しっかりと作成し、チェックする必要があります。

 著作権に関する契約書は、著作権法に精通している弁護士に依頼することができます。

弁護士法人かける法律事務所が対応できること

 弁護士法人かける法律事務所には、著作権・著作者人格権の問題に対応できる弁護士が在籍しています。著作権・著作者人格権の侵害で警告や訴訟提起を受けたら、まずは、ご相談ください。お問い合わせは、こちら

弁護士に依頼できること

  1. 著作者人格権を侵害しているかどうか知りたい。
  2. 損害賠償の減額交渉ができるかどうか知りたい。
  3. 解決金を支払いたいが、しっかりと和解契約書(示談書)を作成したい。
  4. 著作権・著作者人格権トラブルについて民事訴訟が提起され、訴状が届いた。
  5. 著作権・著作者人格権トラブルについて話し合いがまとまらず、民事訴訟に発展するかもしれない。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務や著作権に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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