法律コラム

Q&A<知的財産権・著作権トラブル対応>著作者人格権の特徴や注意点について弁護士が解説します。

2024.04.15

よくある相談例

  1. 著作者人格権の取り決めについて、契約書に記載されている。
  2. 小説を映画化するが、一部内容を変更する必要がある。
  3. 著作者人格権の侵害を理由に訴状が届いた。

著作者人格権とは?ー著作権との違いー

 ある著作物を創作した人(著作者)は、当該著作物に関して、大きく分けて「著作権」と「著作者人格権」という2つの権利を有します。最近、「著作権」だけでなく「著作者人格権」もよく耳にする言葉だと思いますが、その内容についてよく知らない方も多いのではないでしょうか。

 「著作権」とは、著作物の利用(複製、公衆送信等)から生じる経済的利益を保護する権利です。

 それに対して、「著作者人格権」とは、「人格権」ということからも分かるように、著作物に対する著作者の思いやりやこだわりを保護する権利です。一般に、著作物は、著作者の思想や感情等の精神性が少なからず反映されているため、著作物の取り扱われ方によっては、著作者の人格や精神に対して害を及ぼすこともありえます。そのような事態を防ぐための手段として、著作者人格権という権利が認められています。

 すなわち、「著作権」が著作物に関する経済的利益を保護する権利であるのに対し、「著作者人格権」は、著作物に対する精神的利益を保護する権利であり、目的がそれぞれ異なっています。

 著作者人格権に何が含まれるかについて、著作権法は、①公表権(著作物をいつどのように公表するかを著作者自身が決定する権利)、②氏名表示権(著作物に名前を表示するか、どのような名前を表示するか(実名orペンネーム)を決定する権利)、③同一性保持権(著作物の内容やタイトルについて、著作者の意に反した改変を禁止する権利)という3つの権利を定めています(著作権法18~20条)。

 また、上記3つの著作者人格権の侵害に該当しなくても、著作者の名誉や声望を害する方法で著作物を利用する場合には、著作権人格権の侵害とみなされます(著作権法113条11項)。

著作権法18条(公表権)1項

 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

著作権法19条(氏名表示権)1項

 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

著作権法20条(同一性保持権)

 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

著作権法113条(侵害とみなす行為)11項

 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

著作者人格権の特徴とは?

 経済的利益を保護する「著作権」とは異なり、「著作者人格権」は、著作者自身の人格的利益(精神的利益)を保護するという特徴があります。

 そのため、著作者人格権には「一身専属性」があるとされ、他人に譲渡することはできず、著作者が亡くなっても相続されることはありません(著作権法59条)。

 もっとも、著作権法では、著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護に関する規定もあるため、注意する必要があります(著作権法60条)。

著作権法59条(著作者人格権の一身専属性)

 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。

著作権法60条(著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護)

 著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

著作者人格権の注意点とは?

注意点①著作権だけでなく、著作者人格権に関する取り決めも必要であること

 「著作権」と「著作者人格権」は目的が異なっており、そのため、それぞれが別個独立に発生する権利となります。

 そのため、同一の著作物について、「著作権」と「著作者人格権」を両方侵害することがあり、また、「著作権」は侵害していないが「著作者人格権」を侵害するということもありえます。

 例えば、著作者Aが、自己の著作物についての「著作権」を、第三者Bに譲渡したとします。この場合、第三者Bは、譲渡を受けた「著作権」に基づいて、当該著作物を複製したり、複製物を販売したりすることができます。

 もっとも、この場合でも、著作者Aは、当該著作物について著作者である以上、「著作者人格権」を有しています。

 そのため、「著作権」の譲渡を受けた第三者Bが、当該著作物の複製・販売等の利用行為を行う際に、当該著作物の既存の著作者名の表示を無断で変更したり、著作物の内容に無断で改変を加えたりした場合、氏名表示権や同一性保持権といった、著作者Aの「著作者人格権」を侵害することになります。

 このように、著作者から「著作権」の譲渡を受けたとしても、譲渡を受けた側は自由に当該著作物を利用できるわけではなく、利用方法によっては、著作者の「著作者人格権」を侵害する可能性があります。

 もっとも、著作権の譲渡を受けた側として、著作物について一切の変更等ができないとなると、著作物の利用に支障が生じることもあります。

 そのため、著作権に関する契約をする場合、著作権の取り扱いのみならず、著作者人格権に関する取扱いについても合意しておく必要があります。

注意点②著作者人格権は譲渡できないこと(不行使特約)

 このように、著作権に関する契約をする場合、著作者人格権に関する取扱いについても合意する必要がありますが、著作者人格権は、その性質上譲渡することができません。

 そのため、実務上では、著作者から著作権の譲渡を受ける際に、著作物の改変やその範囲について合意をしたり、著作者が著作権人格権を行使しない旨の合意(「不行使特約」といいます。)を交わすことが一般的です。

 仮に、このような合意をしていない場合、著作者に無断で著作物を改変等した場合は、著作者人格権の侵害を主張されるリスクが高くなります。

*著作者人格権は譲渡できないとされているため(著作権法59条)、著作権に関する契約書では、著作者人格権を譲渡するという条項ではなく、著作者人格権を行使しないという条項(不行使特約)が利用されます。

注意点③不行使特約があると、著作者人格権を行使できないこと

 その一方で、著作者の立場からすると、著作物に対する思いが強く、著作物に対する改変等を許容したくないと考える場合も少なくありません。もっとも、著作者人格権を行使しないという条項(不行使特約)がある場合、著作者は、著作者人格権を行使できず、改変等に対してクレームをいうことができなくなります。

 著作物に対する思いが特に強く、自由に改変を認めたくないという場合、著作権に関する契約を締結する前に、著作者人格権に関する取り決め内容を確認し、不行使特約の有無や内容について確認しておく必要があります。

 最近は、著作物を取り扱うプラットフォームでは、プラットフォームの利用条件として著作者人格権を行使しないことの同意を条件としているものも多くあるため、注意する必要があります。

 大切な著作物を守っていくためには、著作者自身が、著作者人格権の取り扱いについて、どのようなルール・契約となるか、しっかりとチェックする必要があります。

著作者人格権に関する条項例

業務委託契約●条(成果物の権利帰属)→不行使特約の具体例

  • 成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、権利発生時に受託者より委託者へ移転する。
  • 前項の著作権移転の対価は委託料に含まれるものとする。
  • 委託者は、成果物を自由に複製、改変することができ、第三者に対し利用許諾することができる。
  • 受託者は、成果物にかかる著作物につき著作者人格権を行使しないものとし、当該著作物の作成者が受託者以外の第三者の場合、当該第三者をして委託者に対して著作者人格権を行使させない旨の合意を交わすものとする。

出版契約●条(著作者人格権の尊重)

出版社は、本著作物の内容・表現又は書名・題号等に変更を加える必要が生じた場合には、あらかじめ著作者の承諾を得なければならない。

弁護士による著作者人格権の侵害対応

1.裁判外での交渉対応

 著作権や著作者人格権の侵害を理由に著作権者から警告を受けた場合、1週間又は2週間と回答期限を決められて、対応を求められることがあります。

 しかし、著作権法や著作権トラブルについて知識や経験がなければ、適切な対応方法がわからず、誤った対応を行ってしまうことがあります。

 例えば、著作権や著作権人格権を侵害していないにもかかわらず、侵害の事実を認めたり、高額な金銭を支払ってしまうこともあります。また、大した問題でないと考えて放置していると、民事裁判が起こされることもあります。

 裁判外で警告を受けた場合、著作権に精通している弁護士に相談し、侵害の有無や損害賠償額の相場を確認することが、思わぬデメリットを回避するためには重要です。

 ケースによっては、弁護士に代理交渉を依頼することも効果的です。弁護士に代理交渉を依頼することによって、減額交渉や、民事裁判とならないような形で交渉を行うことができます。また、回答書や示談書の作成も専門的な知識が必要となり、負担も大きいため、弁護士に依頼することで、その負担を軽減できます。

2.民事訴訟への対応

 著作権や著作者人格権を侵害したとして民事訴訟を起こされた場合、その対応が必要となります。民事訴訟に対応しないと、相手方の請求がそのまま認められてしまい、判決が確定してしまいます。

 民事訴訟を提起された場合には、裁判に出廷し、また、証拠の精査や主張書面の作成が必要になるため、これらを自分でやるとしても労力や時間を要しますし、著作権法や訴訟の知識や経験がなければ、困難な作業といえます。そのため、著作権法・訴訟対応の専門家である弁護士に依頼する方が、効率的に、また、負担が少なく解決可能です。

3.著作権に関する契約書のリーガルチェック

 著作権に関する契約書をチェックするためには、著作権法の知識や理解が必要となります。

 著作権や著作者人格権に関するルールを知らないまま、契約書を作成したり、締結したりする場合、著作物を自由に利用できなかったり、また、意図に反して、著作権や著作者人格権を行使できなくなったりすることがあります。著作物に対する思いは、著作者や著作物によって異なります。著作権に関する契約によって、不利益を受けたり、想定外のリスクが発生しないように、しっかりと作成し、チェックする必要があります。

 著作権に関する契約書は、著作権法に精通している弁護士に依頼することができます。

弁護士法人かける法律事務所が対応できること

 弁護士法人かける法律事務所には、著作権・著作者人格権の問題に対応できる弁護士が在籍しています。著作権・著作者人格権の侵害で警告や訴訟提起を受けたら、まずは、ご相談ください。お問い合わせは、こちら

弁護士に依頼できること

  1. 著作者人格権を侵害しているかどうか知りたい。
  2. 損害賠償の減額交渉できるかどうか知りたい。
  3. 解決金を支払いたいが、しっかりと和解契約書(示談書)を作成したい。
  4. 著作権・著作者人格権トラブルについて民事訴訟が提起され、訴状が届いた。
  5. 著作権・著作者人格権トラブルについて話し合いがまとまらず、民事訴訟に発展するかもしれない。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務や著作権に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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