法律コラム

取適法の最新勧告事例を解説―量産終了後も量産時の単価で発注していませんか?『買いたたき』に注意―

よくある相談例

  1. 量産が終了した部品について、補給品として少量発注を続けています。量産時に合意した単価をそのまま使っても問題ありませんか?
  2. 受注者から、発注数量の減少や材料費・人件費の上昇を理由に単価見直しを求められています。発注者として、どのように対応すべきでしょうか?
  3. 材料費や人件費が上がっていることは分かっていますが、従来どおりの単価で発注しています。受注者から強い異議がなければ問題ありませんか?

勧告事例の概要

2026年6月16日、公正取引委員会は、自動車用の電子製品及び電子部品の製造販売を行う事業者に対し、取適法(旧下請法)に基づく勧告を行いました。

本件では、同社が受注者3名に対し、自社が販売する自動車用の電子製品の部品等の製造を委託していたところ、量産終了後も、量産時の発注数量を前提とした単価で発注していたことが問題となりました。

具体的には、2024年10月から2025年10月までの間、計16品番の部品等について、委託の時点で既に量産が終了し、量産時と比較して発注数量が大幅に減少していました。

そのため、1個当たりの製造に要する費用が大幅に増加することが明らかであったにもかかわらず、同社は、受注者と単価の見直しについて協議することなく、一方的に量産時の発注数量を前提とした単価で代金額を定めていました。

公正取引委員会は、この行為について、取適法が禁止する「買いたたき」に該当すると判断し、受注者の給付と同種又は類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比して著しく低い額ではない額まで、2024年10月の発注分に遡って下請代金を引き上げること等を勧告しました。

今回の勧告は、「過去に決めた単価だから」「量産時から同じ単価で取引しているから」といった理由だけでは、発注数量や製造コストの変化を無視した単価設定が正当化されないことを示した事例として注目されます。

公正取引委員会による勧告事例の詳細は、こちら

違反行為の解説―なぜ「買いたたき」に当たるのか―

取適法では、委託事業者(親事業者・発注者)が、中小受託事業者(下請事業者・受注者)の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し、通常支払われる対価に比して著しく低い代金額を不当に定めることを禁止しています。

これが、いわゆる「買いたたき」です。

買いたたきというと、発注者が受注者に対して一方的に値下げを求める場面を想像しやすいかもしれません。しかし、取適法上問題となるのは、明示的な値下げ要請がある場合に限られません。

今回の事例のように、量産時に設定した単価を、量産終了後もそのまま使い続ける場合にも、取適法上問題となることがあります。

量産時には、大量発注を前提として、生産ライン、材料調達、人員配置、検査体制などを効率化できるため、1個当たりの製造コストを低く抑えられることがあります。

これに対し、量産終了後の補給品や保守部品では、発注数量が大幅に減少し、少量生産となることがあります。その場合、段取り替え、部材の小口調達、設備や金型の維持、検査対応、管理業務などの負担が相対的に大きくなり、1個当たりの製造コストが上昇することがあります。

それにもかかわらず、発注者が、受注者と単価の見直しについて協議することなく、量産時の発注数量を前提とした単価を一方的に適用し続けると、受注者に過度な負担を負わせることになります。

この点について、冒頭の相談例に即して整理すると、まず、相談例①のように量産終了後の補給品を量産時と同じ単価で発注することは、それだけで直ちに違法となるわけではありません。しかし、発注数量が大幅に減少し、1個当たりの製造費用が増加しているにもかかわらず、その事情を考慮せずに従前単価を維持する場合には、「買いたたき」と評価される可能性があります。

次に、相談例②のように、受注者から単価見直しを求められた場合、発注者は、必ず受注者の希望額をそのまま受け入れなければならないわけではありません。もっとも、発注数量の減少、材料費・人件費の上昇、製造条件の変化など、価格に影響する事情がある場合には、形式的に拒否するのではなく、合理的な根拠に基づいて協議することが重要です。

また、相談例③のように、材料費や人件費が上がっていることを発注者側が認識しているにもかかわらず、従来どおりの単価で発注を続ける場合にも注意が必要です。受注者は、今後の取引への影響を懸念して、明確な異議や値上げ要請を出しにくいことがあります。そのため、「受注者から強い異議がない」という事情だけで、従来単価の維持が当然に正当化されるわけではありません。

重要なのは、「昔から同じ単価であるか」ではなく、現在の発注数量や製造条件、コスト状況を踏まえた場合に、その単価が合理的といえるかどうかです。

今回の勧告事例は、「受注者から強い苦情がないから大丈夫」「社内システムに登録された単価を使っているだけだから問題ない」といった考え方が通用しない場合があることを示したものといえます。

企業が注意すべき3つのポイント

ポイント1「量産時の単価」をそのまま使い続けない

今回の勧告事例では、量産終了後、発注数量が大幅に減少し、1個当たりの製造費用が大幅に増加することが明らかであったにもかかわらず、量産時の発注数量を前提とした単価がそのまま用いられていました。

実務上は、

  • 量産時に決めた単価表をそのまま使っている
  • 社内システム上、過去単価が登録されたままになっている
  • 過去の見積書や契約書の単価を当然の前提にしている
  • 受注者から値上げ要請がないため見直していない

といったケースがあります。

しかし、取適法では、過去に決めた単価であることだけで適法になるわけではありません。 量産終了、発注数量の減少、製造条件の変更などがある場合には、過去の単価を維持することが合理的かを確認する必要があります。

ポイント2単価見直しの申出には、実質的な協議を行う

受注者から単価見直しの申出があった場合、発注者は、希望額をそのまま受け入れる必要まではありません。

もっとも、発注数量の減少やコスト上昇など、価格に影響する事情があるにもかかわらず、十分な確認をしないまま「従来単価でお願いします」と一方的に回答することは、取適法上問題となる可能性があります。

協議に当たっては、

  • 発注数量の変化
  • 製造ロットの規模
  • 材料費や人件費の変動
  • 段取り替えや管理業務の負担
  • 金型、設備、検査体制の維持費用

などを確認し、合理的な根拠に基づいて判断することが重要です。

また、協議の日時、内容、受注者から提示された資料、発注者側の判断理由などを記録に残しておくことも有効です。

ポイント3契約書だけでなく、価格決定の運用を点検する

取適法対応では、契約書や発注書の整備だけでなく、実際の価格決定の運用を確認することが重要です。

契約書上は問題がなくても、現場では、

  • 量産終了後も自動的に量産時単価で発注している
  • 少量発注になっても単価を見直していない
  • コスト上昇を把握していても価格に反映していない
  • 受注者からの価格協議の申出を十分に検討していない
  • 価格決定の根拠が記録されていない

といったケースが見られることがあります。

今回の勧告事例も、実際の発注において、量産終了後の発注数量や製造費用の変化を考慮せず、一方的に単価を定めていたことが問題となりました。

そのため、購買部門や調達部門だけでなく、設計、生産管理、品質保証、営業など関係部門も含めて、量産終了品や補給品の単価管理を点検することが重要です。

取適法対応は、単価の実務点検から始まります

今回の勧告事例は、「量産時の単価を使うこと」自体が常に問題となるというものではありません。

問題となったのは、量産終了後に発注数量が大幅に減少し、1個当たりの製造費用が大幅に増加することが明らかであったにもかかわらず、受注者と単価見直しについて協議せず、一方的に量産時の発注数量を前提とした単価で発注していた点です。

そのため、取適法への対応としては、実際の取引において、

  • 量産終了後も量産時単価をそのまま使っていないか
  • 発注数量の減少が単価に反映されているか
  • 材料費、人件費、エネルギー費の上昇を考慮しているか
  • 受注者からの単価見直しの申出に対応しているか
  • 価格協議の経緯や判断理由を記録しているか

といった点を確認することが重要です。

特に製造業では、量産終了後も補給品、保守部品、サービスパーツなどの発注が長期間続くことがあります。現場では当然と思われている価格運用であっても、取適法上は「買いたたき」と評価されるリスクが潜んでいる場合があります。

弁護士法人かける法律事務所では、製造業をはじめとする企業の取適法対応について、実務に即した支援を行っています。

  • 取適法に関する法令遵守体制の整備支援
  • 取引基本契約書、個別契約書、発注書のリーガルチェック
  • 量産終了品、補給品、保守部品の単価ルールの点検
  • 発注フローや価格協議プロセスの整備
  • 購買部門、調達部門、発注担当者向けの社内研修
  • 公正取引委員会への対応支援
  • 取引慣行の適法性に関するアドバイス

など、企業の実情に応じたサポートを提供しています。

「量産終了後も従前単価で発注しているが問題ないか確認したい」
「受注者から単価見直しを求められた場合の対応を整理したい」
「買いたたきと評価されるリスクがないか点検したい」

といった段階からでもご相談いただけます。

取適法対応は、問題が発生してからではなく、日頃の取引や価格決定の運用を見直すことから始まります。ご不安な点がございましたら、お気軽に弁護士法人かける法律事務所までお問い合わせください。

野呂 朱里

このコラムの執筆者

弁護士野呂 朱里Akari Noro

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