法律コラム

取適法の最新勧告事例を解説―受注者に無償で運送をさせていませんか?『不当な経済上の利益の提供要請』に注意―

よくある相談例

  1. 修理や加工を委託している受注者に対し、製品や車両の引取り・納品をお願いしています。運送費用を支払わなくても問題ありませんか?
  2. 「受注者が引取り・納品を行うのは当然」という前提で取引を続けています。長年の慣行であれば問題はないのでしょうか?
  3. 受注者に運送や納品などの付随業務を依頼していますが、委託代金とは別に費用を支払っていません。取適法上問題になる可能性はありますか?

勧告事例の概要

2026年6月4日、公正取引委員会は、自動車販売・修理業を営む事業者に対し、取適法(旧下請法)に基づく勧告を行いました。

本件では、同社が受注者15名に対し、自社の顧客から請け負った自動車の板金塗装や点検整備等を委託していたところ、受注者に対し、自動車の引取り及び引渡しに係る運送を行わせていたにもかかわらず、その費用を支払っていなかったことが問題となりました。

具体的には、2024年9月から2025年9月までの間、合計1,014台の自動車について、自社の販売店舗と受注者の整備工場との間の運送を受注者に行わせていましたが、当該運送に要した費用を負担していませんでした。

公正取引委員会は、この行為について、取適法(旧下請法)が禁止する「不当な経済上の利益の提供要請」に該当すると判断し、受注者が負担した運送費用相当額の支払等を勧告しました。

今回の勧告は、「運送費用を誰が負担するのか」という実務上よく見られる問題について、発注者が自己のために受注者へ無償の負担を求めることは、取適法上問題となる可能性があることを示した事例として注目されています。

公正取引委員会による勧告事例の詳細は、こちら

違反行為の解説―なぜ「不当な経済上の利益の提供要請」に当たるのか―

取適法では、委託事業者(親事業者・発注者)が中小受託事業者(下請事業者・受注者)に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、中小受託事業者の利益を不当に害することを禁止しています。

この規制は、委託事業者と中小受託事業者との間に存在する立場の差を踏まえたものです。

中小受託事業者は、取引の継続や今後の受注への影響を懸念し、本来であれば委託事業者が負担すべき費用や業務であっても、断りにくい立場に置かれることがあります。

そのため、取適法では、委託事業者が取引上の立場を利用して不当な負担を押し付けることを防止し、中小受託事業者の利益を保護するため、「不当な経済上の利益の提供要請」を禁止しています。

ここでいう「経済上の利益」には、金銭だけでなく、労務の提供や各種作業への協力なども含まれます。また、「協力金」「協賛金」「管理費」といった名目であるかどうかは問われません。

今回の事例では、委託事業者は受注者に対し、自動車の引取り及び引渡しに係る運送を行わせていました。

しかし、その運送に要する人件費、燃料費、車両維持費その他の費用について、受注者に対して支払を行っていませんでした。

公正取引委員会は、このような取引について、

  • 委託事業者は運送という役務の利益を受けている
  • 受注者は運送に伴う費用や負担を負っている
  • しかし、その対価が支払われていない

という点を問題視し、「不当な経済上の利益の提供要請」に該当すると判断したものと考えられます。

なお、取適法上、「不当に害する」といえるかどうかは、受注者に直接の利益があるかどうかや、自由な意思に基づく提供であるかどうかなどを踏まえて判断されます。

例えば、受注者に十分な利益があり、かつ自由な意思に基づいて協力している場合には問題とならないこともあります。

一方で、

  • 委託事業者の利益のための対応であるにもかかわらず対価が支払われない場合
  • 今後の取引への影響を懸念して受注者が事実上断れない状況にある場合
  • 負担内容や条件が曖昧なまま協力を求めている場合

などには、取適法上問題となる可能性があります。

重要なのは、「運送費」という名目そのものではなく、委託事業者のために行われる業務や負担について、適切な対価が支払われているかという点です。

例えば、

  • 製品や部品の引取り・納品
  • 商品の配送
  • 保管業務
  • 検品作業
  • 各種事務作業
  • 緊急対応や追加対応

などについても、委託事業者の利益のために無償で対応させている場合には、同様の問題が生じる可能性があります。

今回の勧告事例は、「長年の慣行だから」「取引上当然の対応だから」といった理由だけでは、受注者への無償負担が正当化されないことを示した事例として注目されます。

企業が注意すべき3つのポイント

ポイント1「長年の慣行だから大丈夫」と考えない

今回の勧告事例では、受注者が自動車の引取りや引渡しに係る運送を行っていたにもかかわらず、その費用が支払われていませんでした。

実務上は、

  • 以前からその運用を続けている
  • 業界では一般的である
  • 受注者から特に不満が出ていない

といった理由から、問題意識を持たずに運用されているケースも少なくありません。

しかし、取適法では、長年の慣行であることや受注者が異議を述べていないことだけで適法になるわけではありません。

まずは、「当たり前」と考えている運用の中に、受注者へ無償の負担を求めているものがないかを確認することが重要です。

ポイント2運送以外の付随業務にも注意する

今回問題となったのは運送業務でしたが、取適法上問題となるのは運送に限られません。

例えば、

  • 製品や部品の引取り・納品
  • 保管業務
  • 検品作業
  • 各種事務作業
  • 緊急対応や追加対応
  • 無償のサンプル作成や試作品対応

などについても、委託事業者の利益のために無償で対応させている場合には、「不当な経済上の利益の提供要請」と評価される可能性があります。

特に、「本来の委託業務に付随する作業だから」という理由だけで無償対応を求めていないか、一度整理しておくことが重要です。

ポイント3契約書だけでなく実際の運用を点検する

取適法対応では、契約書の整備だけでなく、実際の運用を確認することが重要です。

契約書上は問題がなくても、現場レベルでは、

  • 引取りや納品を無償で依頼している
  • 追加作業を当然のように求めている
  • 費用負担のルールが曖昧なまま運用している

といったケースが見られることがあります。

今回の勧告事例も、実際の取引の中で受注者に費用負担をさせていたことが問題となりました。

そのため、契約書だけでなく、発注担当者や現場担当者の運用も含めて点検し、「委託事業者の利益のための無償対応」が発生していないか確認することが重要です。

取適法対応は、実務点検から始まります

今回の勧告事例は、「運送費用」そのものが問題だったわけではなく、委託事業者の利益のための業務や負担を、受注者へ無償で求めていたことが問題とされた事例といえます。

そのため、取適法への対応は、契約書の整備だけで完結するものではありません。

実際の取引において、

  • 引取りや納品に関する費用負担は明確になっているか
  • 付随業務を無償で依頼していないか
  • 長年の慣行として受注者へ負担を求めていないか
  • 現場担当者の運用と契約内容に乖離がないか

といった点を確認することが重要です。

特に製造業では、運送、保管、検品、緊急対応など、本来の委託業務に付随する業務が日常的に発生します。そのため、現場では当然と思われている運用であっても、取適法上問題となるリスクが潜んでいる場合があります。

弁護士法人かける法律事務所では、製造業をはじめとする企業の取適法対応について、実務に即した支援を行っています。

  • 取適法(旧下請法)に関する法令遵守体制の整備支援
  • 取引基本契約書、個別契約書のリーガルチェック
  • 発注フローや費用負担ルールの点検
  • 社内研修の実施
  • 公正取引委員会への対応支援
  • 取引慣行の適法性に関するアドバイス

など、企業の実情に応じたサポートを提供しています。

「自社の運用に問題がないか確認したい」
「取適法違反となるリスクがないか点検したい」
「取引先との費用負担ルールを見直したい」

といった段階からでもご相談いただけます。

取適法対応は、問題が発生してからではなく、日頃の取引や運用を見直すことから始まります。ご不安な点がございましたら、お気軽に弁護士法人かける法律事務所までお問い合わせください。

細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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