
目次
よくある相談
- 監査役に就任したが、義務や責任の範囲がよく分からない。どこまで監督すればよいのか、責任を問われるリスクはどこにあるのかを明確に知りたい。
- 監査役を務めている会社でトラブルが発生した。不正や法令違反の兆候を見つけたとき、監査役としてどのように対応すべきか迷っている。
- 監査役の役割を果たしたいが、具体的に何ができるのか分からない。監査役に与えられている権限や実際に使える手段を知りたい。
監査役設置会社とは?監査役の基本的な役割
「監査役設置会社」とは、監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又は会社法の規定によって監査役を置かなければならない株式会社をいいます(会社法2条9号)。
会社法上では、監査役の設置は原則任意です。ただ、取締役会を設置している会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)では、監査役の設置が義務付けられています(会社法327条2項)。
監査役は、株主総会で選任され(会社法329条1項)、取締役の職務の執行を監督する権限を有します(会社法381条1項)。
監査役は、独任制の機関であり、複数の監査役がいる場合でも、各自が単独でその権限を行使することができます。
監査役と会社との契約関係と法的責任
監査役は、会社との間で委任契約の関係にあって(会社法330条)、会社に対して、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います(民法644条)。この義務は、監査役が会社のためにその職務を遂行する際に、一般的にその地位にある者に期待される水準の注意を払うことを求めるものです。
万一、監査役がこの義務を怠り、会社に損害が生じた場合には、損害賠償責任(会社法423条1項)を問われる可能性があります(任務懈怠責任)。
監査役の主な義務
監査役は、会社に対し、善管注意義務を負いますが、監査役の具体的義務は以下のとおり法定されています。
- 取締役の職務執行の監査(会社法381条)
監査役は、取締役の業務執行を監査する権限があって、法務省令で定めるところに従い、監査報告を作成する義務があります。 - 不正行為等の報告義務(会社法382条)
監査役は、取締役による不正行為、法令・定款違反行為、著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく取締役(取締役会設置会社では取締役会)に報告する必要があります。 - 取締役会への出席義務(会社法383条)
監査役は、取締役会に出席し、必要があると判断すれば意見を述べなければなりません。 - 株主総会に関する報告義務(会社法384条)
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければなりません。この場合、法令・定款に違反する事項や著しく不当な事項があるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければなりません。 - 計算書類等の監査義務(会社法436条)
監査役は、計算書類や事業報告等の法定書類を監査する義務があります。
監査役に与えられている主な権限
監査役は、監査役の義務を履行するために、以下の権限が与えられています。
- 取締役の職務執行の監査権(会社法381条1項)
- 取締役や使用人等に対して事業の報告を求め、業務や財産の状況を調査する権限(会社法381条2項)
- 子会社に対して事業の報告を求め、業務や財産の状況を調査する権限(会社法381条3)
- 取締役会の招集請求権(会社法383条2項)や監査役自身による取締役会の招集権(会社法383条3項)
- 取締役の違法行為等に対する差止請求権(会社法385条1項)
- 会社と取締役との間に訴えにおける代表権(会社法386条)
監査役の責任が問われやすい場面と対応策
監査役は会社法上、取締役の職務執行を監査する重要な役割を担っており、その職務遂行が不十分であれば任務懈怠責任を問われる可能性があります。以下では、実務上責任追及が問題となりやすい典型事例と、その際に求められる対応を紹介します。
ケース①取締役の不正行為や疑義のある決算内容を発見したケース
事例:
A社(取締役会設置会社)において、監査役が決算監査や業務監査を実施する中で、不自然な仕訳や帳簿残高と現預金残高の不一致など、「疑義のある取引」や「粉飾の兆候」を把握した。
監査役の対応義務:
会社法382条により、監査役は取締役の職務執行に関し、不正行為や法令・定款違反、その他著しく不当な事実を認めた場合には、遅滞なく取締役会に報告する義務を負います。
この報告を怠り、結果として会社に損害が生じた場合には、監査役は善管注意義務違反(民法644条、会社法330条)として任務懈怠責任(会社法423条1項)を問われる可能性があります。
監査役に求められる具体的な対応:
- 記帳や決算処理の整合性確認を形式的に終わらせず、疑義のある項目については原始証憑を直接確認する。
- 取締役に対して、疑義の内容を書面で質問・回答させ、そのやり取りを監査記録として残す。
- 不正や重大な疑義があると判断される場合には、速やかに取締役会へ報告し、是正措置を促す。必要に応じて社外の専門家(会計士・弁護士)に意見を求める。
ケース②株主総会に提出された議案に重大な問題を発見した場合
事例:
B社において、株主総会の提出議案の中に、不適切な取締役報酬改定や、会計上の恣意的操作を含む計算書類が含まれていることを監査役が確認した。
監査役の対応義務:
会社法384条により、監査役は取締役が株主総会に提出しようとする議案・書類を調査し、法令または定款に違反する事項や著しく不当な事項があると認める場合には、その調査結果を株主総会に報告する義務を負います。
したがって、
- 報酬総額の妥当性に明らかな疑義を持ちながら黙認する場合
- 粉飾決算の疑いが強いにもかかわらず調査・報告を怠る場合
には、監査役が善管注意義務を尽くしていないと評価され、損害賠償請求(会社法423条1項)や株主代表訴訟の対象となる可能性があります。
監査役に求められる具体的な対応:
- 株主総会に提出される議案の調査が、株主の議決権行使に直接影響を与える重要な責務であることを認識する。特に報酬改定、M&A、自己取引に関する議案は、社外株主への影響が大きいため重点的に確認する。
- 疑義がある場合には、必要に応じて社外専門家(弁護士・公認会計士等)に相談し、独立した見解を取得する。
- 不適切な議案や書類が含まれると判断した場合は、事前に取締役へ是正を求めるとともに、株主総会での報告を準備し、必要に応じて口頭または書面で株主へ注意喚起を行う。
ケース③監査報告の期限や内容不備が疑われる場合
事例:
C社では、経理部門から提出された会計資料に対し、監査役が「棚卸資産の評価に大きな乖離がある」と指摘した。しかし、取締役側は「時間がない」として修正提案を反映せず、監査役に報告書の作成を促した。その結果、株主総会招集通知に監査報告が添付されないまま発送されてしまった。
監査役の対応義務:
会社法381条1項に基づき、監査役は取締役の職務執行を監査し、その結果を監査報告として作成する義務を負います。監査報告は株主総会招集通知とともに提供されることが前提とされており、期限を徒過したり内容に重大な不備がある場合、監査役は善管注意義務違反として任務懈怠責任を問われる可能性があります。
監査役に求められる具体的な対応:
- 株主総会開催日から逆算して、監査報告の作成期限を明確に設定し、遅れのない対応を行う(スケジュール管理の徹底)。
- 各取締役部門へのヒアリングや資料精査の結果を記録化し、監査報告に適切に反映させる(調査結果の適切な反映)。
- 複数の監査役間で意見が分かれる場合には、協議を経たうえで最終的な監査報告書を作成する。必要に応じて、少数意見を付記する方法も検討する(意見不一致時の対応)。
まとめ~監査役設置会社における監査役の義務・権限~
① 監査役は、会社に対して善管注意義務を負い、取締役の職務執行を監査する立場にあること
監査役は取締役の職務執行を監督し、株主や会社全体の利益を守る独立した立場にあります。善管注意義務を怠れば任務懈怠責任を問われる可能性もあるため、形式的な監査ではなく、実質的・積極的な監査姿勢が必要です。
② 法定された義務を的確に果たすことが重要
取締役会・株主総会への出席や意見表明、不正行為や違法・不当な議案の報告、計算書類の監査など、法律上明確に定められた義務があります。これらを確実に遂行することが、監査役としての最低限かつ最大の役割です。
③ 与えられた権限を活用して実効性ある監査を行う
報告請求権や調査権、取締役会招集請求権、差止請求権などの権限を積極的に活用することで、監査役は会社の不正やリスクを未然に防ぐことができます。権限を「使わないリスク」が責任追及につながる点を意識し、必要な場面では権限を行使することも検討すべきです。
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① 就任前・就任後の研修・勉強会
- 役員の義務・責任に関する基本解説(取締役・監査役の会社法上の立場と法的リスク)
- 直面しやすいリスクと対応策(任務懈怠責任、株主代表訴訟リスク、善管注意義務違反など)
- 社外取締役・社外監査役候補者向け研修(初めて役員に就任する方のための実務入門)
② 法令違反・利益相反取引への対応サポート
- 取締役の利益相反取引の適法な手続き対応(会社法356条・365条に基づく承認手続、議事録整備)
- 役員の法令違反行為への対応(不正行為の調査・是正措置の助言、取締役会・監査役会への報告サポート)
- 責任追及リスクの予防(利益相反や不適切な意思決定を放置した場合に想定される損害賠償責任の解説・防止策)
③ 取締役会・株主総会の運営支援
- 取締役会の適法運営サポート(招集手続、議案作成、議事録作成、意思決定の適法性チェック)
- 株主総会対応のリーガルチェック(招集通知・参考書類・事業報告・計算書類の適法性確認)
- 株主総会当日の対応支援(役員説明のリハーサル、想定問答集作成、トラブル発生時の臨機応変な助言)
④ 株主間紛争(経営権・支配権争い)
- 同族会社での経営権争い(親族間の対立、代表取締役解任の是非)
- 出資比率や議決権行使をめぐる争い
- 株主間契約(株式譲渡制限、議決権行使方法)違反に基づく紛争
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