法律コラム

Q&A<契約書対応>取引基本契約書のチェックポイントとは?トラブルや紛争の未然予防の視点から弁護士が解説します。

2024.06.17

よくある相談例

  1. 取引基本契約書のチェックポイントがわからない。
  2. 取引基本契約書について重大なリスクがないか知りたい。
  3. 気になる取引条件があるので、取引基本契約書を修正したい。

取引基本契約書とは?

 取引基本契約書とは、企業間(B to B)で継続的に行われる取引に適用される、共通の取引条件やルールを定める契約をいいます。

 継続的に行われる取引では、発注する商品やサービスごとに個別契約が成立します。取引基本契約書を締結する場合、個別契約で特約(特別な合意)がない限り、取引基本契約書で合意した取引条件が適用されます。

 取引基本契約書には、「売買基本契約書」、「業務委託基本契約書」、「製造委託基本契約書」、「継続的取引基本契約書」、「外注基本契約書」、「開発基本契約書」等様々な名称がありますが、継続取引の基本的な取引条件やルールを定めている点で共通します。

*個別契約では、取引ごとに個別契約書を作成することもありますが、注文書や請書によって行われることもあります。

取引基本契約書の内容

 取引基本契約書では、以下の条項が含まれています。

  1. 取引基本契約の目的
  2. 適用範囲
  3. 個別契約の内容と成立
  4. 納品や検査(検収)
  5. 所有権の移転/危険負担
  6. 仕様
  7. 品質保証
  8. 代金の支払方法
  9. 支給品や貸与品
  10. 契約不適合責任
  11. 製造物責任
  12. 知的財産権の帰属
  13. 知的財産権その他第三者の権利及び利益の侵害への対応
  14. 損害賠償の範囲
  15. 再委託
  16. 契約上の地位や権利義務の譲渡の禁止
  17. 不可抗力
  18. 秘密保持義務
  19. 通知義務
  20. 契約期間
  21. 反社会的勢力の排除
  22. 解約
  23. 解除
  24. 準拠法
  25. 裁判管轄

取引基本契約書のチェックポイント

① 取引当事者や対象取引の確認

 取引基本契約書を作成するに際して、まず、取引当事者を確認する必要があります。当たり前のことかもしれませんが、グループ会社や外資系企業との間で取引を行う場合、当事者間の思惑が異なることもあります。取引基本契約では、原則として契約当事者間でしか効力が生じないため、契約当事者を間違ってしまうと、契約違反があった場合でも契約違反の責任追及ができないことがあります。具体的には、親会社と取引しているのか、それとも、関連会社と取引しているのか、誰と契約すべきかについて検討が必要な場面があります。複数の関係会社が関与している場合、取引当事者の決定は重要で、初期の段階で確認しておく必要があります。

 また、取引基本契約書では、対象取引を明確にしておく必要があります。例えば、会社Aと会社Bとの間で複数の取引があって、担当する事業部が異なる場合、どの事業部に係る取引に適用されるのかを明確にしておく必要があります。また、取引基本契約書の適用を、特定の製品のみに適用したい、又は特定の製品では適用を排除したい場合、対象取引を限定又は除外しておく必要があります。

 未然のトラブルや紛争を回避するためにも、取引基本契約書の対象となる契約当事者や対象取引を明確にしておく必要があります。当たり前のことかもしれませんが、契約実務では実際にミスが発生することもあるため、注意する必要があります。

② 取引の法的性質に応じた契約書を準備すること

 取引基本契約といっても、取引の法的性質が異なります。具体的には、その法的性質が売買契約(民法555条以下)、請負契約(民法634条以下)や委任契約(民法634条以下)なのか、また、複数の法的性質が混合されたものなのかについて確認しておく必要があります。

 契約実務では、取引の法的性質が請負契約であるにもかかわらず、売買契約を基本とする取引基本契約が提示されることもあります。もちろん取引の法的性質が複合的なものであったり、取引の法的性質の判断が難しい場合(例えば、製作物供給契約)もあって、法的性質にこだわりすぎる場合、取引の開始が遅れてしまったり、取引できないこともあります。この場合、法的リスクの内容や程度を踏まえて、取引基本契約書の締結を進めることも経営判断として、あり得ます。

 もっとも、取引の実態と取引基本契約書の法的性質があまりにも乖離していると、取引の未然のトラブル・紛争を予防するために契約書を作成したつもりが、トラブル・紛争を深刻化させることもあります。

 そのため、取引の法的性質を判断したうえで、取引基本契約書を準備したり、レビューや修正作業を行う必要があります。取引基本契約書を作成・準備する上では、取引の実態や法的性質の検討を忘れないようにしておく必要があります。

③ 取引基本契約と個別契約との関係

 取引基本契約を締結するとしても、個別の取引に関し、個別契約を締結する必要があります。取引基本契約では、通常、個別契約で合意する内容(目的物の名称、数量、引渡期日、引渡場所、価格、支払期日等)を確認するとともに、個別契約の成立条件を規定します。

 また、取引基本契約では、取引基本契約の条件と個別契約の条件が異なる場合、どちらの条件を優先させることになるかを定めます。どちらを優先させるのか、また、相違・矛盾する場合の対応について、取引基本契約書で規定するように注意する必要があります。

条項例①(取引基本契約の条件が優先される場合)

 本契約の定めは、個別契約に対して共通に適用されるものとする。本契約と個別契約の相違又は矛盾する場合、本契約の規定が個別契約の規定に優先するものとする。

条項例②(個別契約の条件が優先される場合)

 本契約の定めは、個別契約に対して共通に適用されるものとする。ただし、個別契約においては、本契約と異なる定めをすることができるものとし、本契約と個別契約の内容が異なる場合、個別契約の規定が本契約に優先するものとする。

取引基本契約書の注意点

① 製品やサービスの品質保証の範囲

 取引基本契約では、製品又はサービスの継続的な提供を予定しており、契約当事者にとって、提供する製品やサービスの品質保証の範囲が重要な関心ごとになります。

 商品・サービスを提供する側としては、品質保証の範囲を限定した方が免責の範囲が広く、安心して提供が可能となります。その一方で、商品・サービスの提供を受ける側として、品質保証の範囲が広い方が安心して取引が可能となります。

 品質保証の範囲について、取引の実態に応じて、取引当事者双方が慎重に検討する必要があります。

 なお、知的財産権(特許権や著作権)を侵害していないことを表明保証することが求められることもあります。この場合、法的リスクの内容や程度に応じて、そのような表明保証が可能かどうか、また、難しい場合、表明保証の対象を限定することも検討すべきです。

条項例①(品質保証の範囲を仕様基準等に限定した規定)

 売主は、買主に対して、売主と買主との間で合意した品質基準及び仕様基準に一致することを保証し、安全性や有用性を保証しない。

条項例②(品質保証の範囲を幅広く規定)

 売主は、買主に対して、①対象商品が本契約に基づき特定される仕様等・品質基準・対象商品の利用目的に適合すること、②対象商品が一般的に通常期待される品質・性能を備えること、③対象物が通常の利用環境で使用された場合に正常に使用することができ、かつ不具合がないことを保証する。

② 損害賠償の範囲

 損害賠償の範囲について、取引当事者にとって重要な関心事となります。商品やサービスを提供する側としては、損害賠償の範囲が限定されていた方が安心して商品やサービスを提供することが可能となるため、損害賠償の範囲に関する条項について、十分に検討する必要があります。

条項例(損害賠償の範囲を限定)

  1. 買主は、売主がその責めに帰すべき事由により本契約および本検証に関連する契約に違反し、損害を被った場合、甲に対して損害賠償を請求することができる。ただし、売主が買主に対して本契約に関して負担する損害賠償責任の範囲は債務不履行責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為責任、その他法律上の請求原因の如何を問わず、買主に現実に発生した直接かつ通常の損害に限られ、逸失利益を含む特別損害は、売主の予見または予見可能性の如何を問わず売主は責任を負わない。
  2. 前項に基づき売主が買主に対して損害賠償責任を負う場合であっても、本契約の委託料を上限とする。

③ 過重な義務の有無

 取引基本契約書において、取引基本契約書(ひな型)を提示される一方の契約当事者は、過重な義務が課されていないかどうかを確認し、チェックする必要があります。

 過重な義務と判断される条項としては、以下の例があって、このような条項がある場合、十分にチェックする必要があります。

 もちろん、取引の性質に応じて、やむを得ない場合もありますが、取引活動の自由を制限する条項については、その法的リスクの内容や程度を踏まえて、慎重に判断する必要があります。条項の内容によっては、代替案等を提案することも検討するべきです。

(注意すべき条項)

  • 競業避止義務
  • 原材料や商品の製造方法やサービスの提供方法の指定
  • 従業員や取引先への引抜や勧誘の禁止義務
  • 契約違反に伴う高額な違約金
  • 契約当事者双方に課される義務ではなく、一方的に課される義務(双方向ではなく、一方向の義務となっている場合)

取引基本契約書の作成・チェックは弁護士に依頼できます。

 取引基本契約の作成が必要であるとしても、①取引基本契約書の作成方法がわからない、②取引基本契約書が不利益な内容になっていないか気になる、③取引基本契約書について修正を求めたいが、修正方法がわからないという相談を受けることがあります。

 取引基本契約書の作成・チェックは、弁護士に依頼できます。

弁護士に相談・依頼できる内容:

  • 取引基本契約書(ひな型)の作成
  • 取引基本契約書のリーガルチェック
  • 取引基本契約書の修正
  • 取引交渉のアドバイス
  • 覚書の作成や修正

具体例:

  • 取引基本契約書(ひな型)を作成したい。
  • 取引基本契約書に重大な不利益・リスクがないかチェックしてほしい。
  • 自社の希望に従い、取引基本契約書を修正したい。
  • 取引条件を交渉したいが、交渉方法や落としどころがわからない。
  • 取引基本契約書を修正する必要があるが、覚書で対応することになったが、覚書の作成方法がわからない。代わりに覚書を作成してほしい。

取引基本契約書の作成・チェックを弁護士に依頼するメリット

 弁護士は、紛争・訴訟を解決する実績を多く有するため、紛争・訴訟を未然に防止する加点から取引基本契約書をチェックし、法的リスクの内容や程度に応じた提案を行うことができます。これによって、重大なリスクかどうかを見極めたうえで、スピーディーな意思決定が可能となり、事業の持続的な成長に貢献します。

 また、契約書対応は、弁護士が専門的に対応する分野の一つであり、様々な業種や取引の知見や経験があります。難しい取引条件でも、現実的な落しどころや代替案を弁護士とともに検討することによって、取引先との信頼関係を維持しながら、自社の重大なリスクを回避した経営判断が可能となります。

 さらに、取引基本契約書を作成・チェックした弁護士であれば、万が一、その契約に起因して、トラブルや紛争が起因した場合でも、取引基本契約書を適切に解釈・適用しながら、トラブルや紛争を円満に解決するための対応も可能です。

 もちろん弁護士に相談・依頼する場合、弁護士費用も必要となりますが、顧問契約等を利用すれば、法務に精通する人材を正社員として採用する場合と比較すると、リーズナブルな費用で依頼することは可能です。

 取引基本契約書の作成・チェックについて、弁護士に依頼するメリットは数多くありますので、弁護士への依頼・相談を是非、検討ください。

契約書対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください。

 弁護士法人かける法律事務所では、企業法務/顧問契約について、常時ご依頼を承っております。

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細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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