法律コラム

Q&A<株主総会・取締役会対応>株式譲渡契約とは?売主(譲渡人)の立場から考える株式譲渡契約書のチェックポイントを解説します。

2024.03.18

相談例:

  1. 株式を売却したいのですが、方法がわかりません。
  2. 株式を売却するために必要となる法律上の手続を教えてください。
  3. 株式譲渡契約書に不利な点はないですか。

株式譲渡契約書とは?

 株式譲渡契約書とは、株式譲渡に関する事項を定めた契約書のことです。株式譲渡契約書には、対象株式の情報(会社名、株主名、株式の種類・数)や譲渡金額、支払方法等が記載されています。

 株式譲渡は、会社の経営権の移転を伴ったり、譲渡代金が高額に及ぶ場合があり、重要な取引といえます。

 また、会社法に従って株式譲渡契約書を作成する必要があるため、不備がないように作成する必要があります。

株式譲渡に必要となる会社法上の手続

1. 譲渡制限株式における会社の承認手続

 会社法では、原則として、株式譲渡の自由を認めていますが(会社法127条)、ほとんどの中小企業等では、株式譲渡の制限を定款で定めており、これを譲渡制限株式といいます。

 譲渡制限株式では、定款の定めを確認する必要がありますが、株式譲渡について、取締役会設置会社では取締役会の承認が、取締役会非設置会社では株主総会の承認が必要となります(会社法139条1項)。

 そのため、譲渡制限株式を有効に譲渡するには株主総会又は取締役会の承認が必要となるため、売主(譲渡人)としては、株式譲渡の承認手続が適法になされているかを確認する必要があります。

 仮に譲渡承認の手続が適法になされていなければ、買主(譲受人)から契約違反を理由に損害賠償を請求されるリスクもあるので注意が必要です。

2. 株券発行会社における株券の交付

 株券不発行会社(株券を発行する旨の定款の定めがない会社をいいます。)における株式譲渡では、買主(譲受人)と売主(譲渡人)との間で、株券の交付は不要です。

 これに対して、株券発行会社における株式譲渡では、株券を買主(譲受人)に交付しなければ、その効力が発生しないとされています(会社法128条1項本文)。

 そのため、売主(譲渡人)としては、対象会社が株券発行会社の場合、株式譲渡の実行日に買主(譲受人)に対して株券を交付する必要があります。株券の交付を怠った場合、対象株式の譲渡の効力が生じず、買主から契約違反を理由に損害賠償を請求されるリスクもあるので注意が必要です。

3. 株主名簿の書換

 買主(譲受人)が会社に対して株主の地位を主張するためには、株主名簿の書換手続が必要となります(会社法130条)。

 売主(譲渡人)としては、買主(譲受人)に株式を譲渡したことをもって(株券発行会社の場合、株券を交付したことをもって)、株式譲渡が完了するものではないことに注意が必要です。

 株主名簿の書換は、原則として、売主(譲渡人)と買主(譲受人)の共同で行う必要があるので(会社法133条2項)、売主(譲渡人)としては、株主名簿の書換に協力する必要があります。

株主名簿の記載事項:

  1. 株主の氏名又は名称及び住所
  2. 株主の有する株式の数
  3. 株主が株式を取得した日
  4. 株券発行会社では株式の株券の番号

売主(譲渡人)の立場から考える株式譲渡契約書の注意点

1.株式譲渡の目的に応じた対応が必要であること

 株式譲渡は、以下のように様々な目的で行われます。

  1. 従業員に株式を保有してもらうため、社長が保有する株式を譲渡する。
  2. 会社を退社するメンバーから株式を買い取る。
  3. 資金調達のため、第三者に出資してもらい、株主になってもらう。
  4. 会社を売却し、現金化する。

 この目的に応じて、株式譲渡契約書に記載すべき事項が異なってきますので、売主(譲渡人)としては、まず、株式譲渡契約の目的を確認する必要があります。

 株式譲渡の目的に応じて、株式譲渡契約書の記載事項や売主・買主の義務を個別に検討し、売主(譲渡人)に不利益やリスクが発生しないように株式譲渡契約書を作成する必要があります。

2.株式譲渡価格の決定方法

 株式譲渡価格は、株式譲渡契約の中でも特に重要です。譲渡価格は、売主と買主の合意によって決められるのが基本です。

 コンビニやスーパーマーケットの商品と異なり、株式の価値は、対象会社の企業価値の変動によって常に変化します。

 株式の価値を決定する明確な基準を設けることは、通常困難であるため、株式の価値を算定するための様々な算定方法が存在しています。

 買主(譲受人)と売主(譲渡人)との間で算定方法を合意し、対象会社の企業価値や株式の価値を合意し、株式譲渡代金を決定する必要があります。

 売主(譲渡人)側の視点に立つと、買主(譲受人)の提案をそのまま受け入れるのはリスクがあります。

 また、企業価値は常に変動するものであるため、クロージング(取引の実行)日までの対象会社の企業価値の変動を反映して、事後的に価格調整を行うこともあります。

 株式譲渡価格の決定方法について、売主(譲渡人)としても注意する必要があります。

3.表明保証条項の制限

 表明保証条項とは、売主(譲渡人)が、相手方に対して、契約締結日や譲渡日等の一定の時点において、財務や法務に関する情報について、その内容が正しいことを表明し、保証することをいいます。

 表明保証を行うこと自体は一般的ですが、売主(譲渡人)側からすると、不当な表明保証条項が付されていると、予想外の責任を負わされる可能性が出てきます。
そのため、売主(譲渡人)として、契約書にどのような表明保証が付されているか確認することは重要です。

 また、売主(譲渡人)の表明保証責任を回避又は制限する方法についても検討する必要があります。売主(譲渡人)の表明保証責任を回避又は制限する方法について、例示します。

  1. まず、一般的に表明保証するとしても、特別に除外事項があれば、除外事項について別紙で、個別具体的に指摘し、表明保証責任を回避するという方法があります。
  2. また、各個別の表明保証項目の内容について、重要性や重大性を要求することによって範囲を限定することも考えられます。例えば、「各会計年度における対象会社の財政状態及び経営成績の結果を、重要な点において正確かつ適正に表示している」として、表明保証の範囲に限定を加えます。
  3. さらに、売主(譲渡人)の認識による限定を付すことも可能です。たとえば、「売主の知り得る限り」という限定を付すことによって、不当な責任を負わされるリスクを軽減することが可能となります。

4.競業避止に関する誓約事項

 売主(譲渡人)が対象会社の行っている事業についてノウハウを持っている場合などには、売主(譲渡人)が対象会社の株式を買主(譲受人)に売却した後に、対象会社と売主(譲渡人)が競業事業者となり得る場合があります。

 そこで、買主(譲受人)が株式譲渡契約書に競業避止条項を付すことを希望することもあります。

 売主(譲渡人)にとっては、事業を行うことを禁止される範囲によっては、既存の事業や将来の事業を制限されることになるので、競業避止義務の可否や範囲を検討する必要があります。

  1. 禁止される事業の定義自体を具体的に記載して限定する。
  2. 禁止される地域を限定する。
  3. 禁止される期間を限定する。

株式譲渡契約書の作成・チェックは法律事務所(弁護士)に依頼できます。

 株式譲渡契約書は、取引の全体像やスキームを把握し、法的性質を理解したうえで、作成する必要があります。法的性質を十分に検討せず、株式譲渡契約書を作成すると、当事者間で意図しない効果やリスクが発生することがあります。

 また、株式譲渡契約書では、売主(譲渡人)と買主(譲受人)のいずれの立場になるかによって、各条項について不利益やリスクが発生したりすることもあるため、契約当事者の立場を意識しながら、各条項の内容を検討する必要があります。

 さらに、買主(譲受人)の立場から不利益な条項が提案された時、どのようなリスクがあるのか、また、代替案を提案できるのかを検討する必要があります。

 弁護士は、株式譲渡契約書の作成・チェックを含めて対応できますので、是非、お気軽に、お問合せ下さい。

弁護士に依頼できる内容:

  1. 株式譲渡契約書の作成
  2. 株式譲渡契約書のリーガルレビュー
  3. 契約内容や契約条項の協議や交渉のアドバイス・同席
  4. 株式譲渡契約書に起因した紛争・訴訟の対応(代理交渉を含む。)
  5. 株式譲渡に係るスキームや取引内容の検討

株式譲渡契約書の作成・チェックは、かける法律事務所にご相談ください。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

 顧問契約サービスでは、株式譲渡契約書の作成だけではなく、株式譲渡契約書の修正や法的アドバイス(リーガルレビュー)も対応可能です。お客様のニーズにあわせ、リーズナブルに、かつ、迅速に対応いたします。

林 遥平

このコラムの執筆者

弁護士林 遥平Yohei Hayashi

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