法律コラム

Q&A<契約書対応>業務委託契約とは?委託者(発注者)の立場から考える業務委託契約のチェックポイントを解説します。

2024.02.27

相談例:

  1. 取引先に業務を委託するとき、契約書を作成したほうがいいか。
  2. 業務委託契約と雇用契約の違いを知りたい。
  3. 受注者から業務委託契約書を締結するように言われた。

1.業務委託契約とは?

 業務委託契約とは、委託者(発注者)が受託者(受注者)に対して業務の全部又は一部を委託するための取引条件を定める契約をいいます。

 業務委託契約は、企業が外部の企業やフリーランス・個人事業主に業務を外注する場合に締結することが多い契約類型です。

 業務委託契約で取り扱われる業務は、多種多様であり、多くの企業が業務委託契約を頻繁に利用しています。

 弁護士法人かける法律事務所の顧問先の企業様でも、業務委託契約書のリーガルレビューのご依頼が数多くあります。この際、業務委託契約書のチェックポイントについて、アドバイスを求められます。

 このコラムでは、委託者(発注者)の立場から業務委託契約書のチェックポイントを詳しく解説します。

2.業務委託契約の種類

 業務委託契約には、「業務委託契約」という名称のものもありますが、以下の契約も業務委託契約の一例といえます。

  1. ウェブサイト制作委託契約
  2. システム開発委託契約
  3. 物品製造委託契約
  4. 販売業務委託契約
  5. コンサルティング契約
  6. システム保守契約

3.業務委託契約の法的性質(請負・委任)と注意点

 ここで注意点として、業務委託契約といっても、委託業務の内容や目的によって、民法で定められる契約類型のうち、請負契約なのか、委任契約なのか、個別に判断する必要があります。

 請負契約なのか、委任契約なのかによって、民法で適用されるルールが異なるため、業務委託契約の法的性質を検討することは大切です。

 まず、請負契約とは、受託者(受注者)がある仕事を完成させることを約束し、委託者(発注者)がその仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束する契約のことをいいます(民法632条)。

 これに対し、委任契約とは、委託者(発注者)が受託者(受注者)に対して法律行為を委任する契約のことをいい(民法643条)、委任内容が法律行為以外の事務管理である場合を準委任契約といいます(民法656条)。

 請負契約も委任契約も、第三者に対して業務を委託するという点では共通します。

 もっとも、請負契約では委託者(発注者)は、委託する業務について、仕事の完成を依頼しますが、その反面、委任契約では委託者(発注者)は、仕事の完成ではなく、善管注意義務をもって委任事務を処理することを依頼する点で異なります。

 つまり、請負契約と委任契約では、仕事の完成を求めるのか、それとも、善管注意義務をもって委任事務を処理することを求めるのかという点で異なります。

 そのため、委託者(発注者)の立場では、委託する業務について、仕事の完成を求めるのか、それとも、善管注意義務をもって委任事務を処理することを求めるのか注意して確認する必要があります。

 特に、委託者(発注者)の立場から、仕事の完成(成果物)を求める場合、請負契約を前提として業務委託契約を作成しないと、成果物の瑕疵(不具合)について、受託者(受注者)に責任を追及できないこともあります。

 請負契約では仕事が完成していない場合、責任追及できますが、委任契約では善管注意義務をもって委任事務を処理したことを受託者(受注者)から主張されると、責任追及できなくなる可能性があります。

4.業務委託契約と雇用契約との比較と注意点ー雇用契約とみなされるリスクー

 委託者(発注者)の立場から、労働基準法を含む労働法の規制の適用を回避するため、雇用契約ではなく、あえて業務委託契約を選択するということがあります。もちろん、取引の性質が雇用契約ではなく、業務委託契約であれば、問題はありません。

 ただ、業務委託契約と雇用契約は、仕事(業務)を第三者(受託者/従業員)に依頼するという点で共通しており、その差異が不明確となったりすることもあります。

 また、業務委託契約を締結したが、受託者(受注者)から雇用契約であると主張され、残業代等を請求されるケースがあります。

 さらに、委託者(発注者)が契約を解約又は解除したとき、労働法の解雇権濫用法理が主張され、契約の解約や解除が無効であると主張されることもあります。

 そのため、委託者(発注者)の立場から、外部に業務を委託する場合、雇用契約とみなされないように注意する必要があります。

 業務委託契約なのか、雇用契約なのかは、もちろん契約書の名称(形式的側面)も重視されますが、依頼した業務の内容や遂行方法等の実質的側面も考慮されます。

 つまり、業務委託契約書という名称であっても、雇用契約の本質である「使用従属性」が認められる場合、裁判所によって雇用契約とみなされ、労働法の規制が適用されることがあります。

 業務委託契約か、それとも、雇用契約かという判断基準は、以下の要素に従って判断されます。

判断要素:

  1. 具体的仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由の有無
  2. 業務遂行上の指揮監督の有無
  3. 勤務場所・勤務時間の拘束性の有無
  4. 労務提供の代替性の有無
  5. 報酬の労務対償性
  6. 事業者性の有無
  7. 専属性の程度
  8. 社会保険料/服務規律/福利厚生の適用の有無

 委託者(発注者)が業務を第三者に依頼する場合、取引の性質が雇用契約なのか、それとも、業務委託契約なのかを判断し、業務委託契約を希望する場合、雇用契約とみなされないように契約書を準備する必要があります。

 特に、雇用契約とみなされる可能性がある場合、業務委託契約において、独立事業主であることを確認する条項を記載することも検討すべきです。

第●条(独立事業主)
委託者と受託者は、受託者が委託者の代理人、従業員ではなく、独立の事業主であることを相互に確認する。

5.業務委託契約の内容

 業務委託契約で一般的に記載すべき項目や内容は、以下の通りです。ただし、業務委託契約の内容や目的によって、記載すべき項目や内容は変わります。

  1. 委託業務の内容・仕様
  2. 委託料の金額や計算方法
  3. 委託料の支払方法
  4. 受託者の報告義務
  5. 委託者の協力義務
  6. 納入方法・検収方法
  7. 支給品や貸与品の取扱い
  8. 成果物に係る権利(知的財産権・著作権)の帰属や取扱方法
  9. 再委託の可否
  10. 損害賠償の範囲
  11. 秘密保持義務や個人情報の取扱義務
  12. 解除事由や解除方法
  13. 契約期間や中途解約の可否
  14. 反社会的勢力の排除条項
  15. 準拠法や裁判管轄
  16. 誠実義務

6.委託者(発注者)の立場から考える業務委託契約のチェックポイント

①委託業務は特定されていますか?

 委託者(発注者)が受託者(受注者)に対して委託する業務の範囲は、業務委託契約の内容で決まります。よくあるトラブルとして、業務委託契約書のひな形をそのまま使い、委託者(発注者)が想定した委託業務が記載されておらず、受託者(受注者)が委託業務の範囲外であると主張し、委託業務を行わなかったり、別費用を請求することがあります。

 そのため、委託者(発注者)の立場からすると、委託したい業務の範囲が特定されているのか、正しく記載されているのかについて、チェックする必要があります。

 委託業務の範囲や内容は、正確に記載しないとトラブルになりやすいため、委託者(発注者)の観点からチェックが必要となります。

②損害賠償の範囲が制限されていませんか?

 民法(法律)では、債務不履行と相当因果関係のある損害について、損害賠償責任を負います。

 そのため、受託者(受注者)は、損害賠償額の負担を少なくするため、損害賠償額に上限を設定したり、その範囲を制限する条項が定められていることがあります。

 この場合、委託者(発注者)は、受託者(受注者)の債務不履行により発生した損害に対して、十分な損害賠償を請求できなかったり、損害を被ったために費やした費用を請求できない可能性があります。

 このようなリスクを回避するために、業務委託契約書において、損害賠償の範囲について、適切に規定されているかどうかをチェックする必要があります。

 もちろん、委託者と受託者との力関係や委託業務の内容次第では、損害賠償の範囲を制限する条項について許容すべきこともあります。ただ、実際に取引を行う場合、その条項の内容を確認して、リスクを理解しておく必要があります。

損害賠償の範囲を制限する条項の具体例:

  • 乙は、委託業務を実施するにあたり、その責めに帰すべき事由により甲に損害を与えたときは、乙はその損害を賠償するものとする。ただし、当該損害賠償の上限は、対象となる取引価額を上限とする
  • 乙は、委託業務を実施するにあたり、その責めに帰すべき事由により甲に損害を与えたときは、乙はその損害を賠償するものとする。ただし、当該損害は、現実に生じた直接かつ通常の損害に限り、逸失利益を含まないものとする。
  • 乙は、委託業務を実施するにあたり、甲に損害を与えたときは、乙に故意又は重過失がある場合に限り、その損害を賠償するものとする。

③著作権の帰属の定めを確認しましたか?

 著作権法では、著作権の帰属は、原則として著作物を創作した者(著作者)に帰属するとされています(著作権法2条1項2号)。そのため、業務委託契約に基づき成果物を受託者(受注者)が創作した場合、受託者(受注者)に著作権が帰属されることになります。

 もっとも、業務委託契約において、業務委託契約に基づく成果物に係る権利ついて、委託者(発注者)に譲渡するとか、権利が帰属されるという条項や著作権者人格権を行使しないという条項を定めることも可能です。

 このような条項を定めていないと、委託者(発注者)が自由に成果物を利用できないリスクが発生します。

 そのような事態を回避するために、将来的に成果物を自由に利用したい場合、著作権は、委託者(発注者)に帰属するという条項や著作者人格権を行使しないという条項を規定する必要があります。

④契約の終了原因や解除事由を確認しましたか?

 民法では、解除原因を定めていますが(法定解除事由)、業務委託契約において、法定解除事由とは異なる解除原因(約定解除事由)を定めることもできます。

 業務委託契約において、受託者(受注者)が継続的な契約を期待している場合もあって、委託者(発注者)が契約の終了を希望する場合でも、受注者(受託者)から継続的な契約であるため、取引を終了できない、損害賠償を支払うようにと主張されることもあります。

 業務委託契約を締結する場合、委託者(発注者)の立場から契約の終了原因が規定されているかどうかをチェックする必要があります。

⑤再委託に関する条項を確認しましたか?

 再委託とは、委託者(発注者)から受託者(受注者)に委託した業務を、受託者(受注者)が第三者に対してさらに委託することをいいます。

 業務委託契約では、この再委託の禁止条項が定められている場合が多くあります。これは、委託者(発注者)が受託者(受注者)に提供した情報や技術が再委託によって委託者(発注者)の知らない第三者に提供されることを防いだり、受託者(受注者)を信頼して委託したところ、知らない第三者が委託業務を行うことを防ぐことを目的にしています。 

 もっとも、業務委託契約の中には、第三者への再委託が自由であるという条項が定められることもあります。

 そのため、委託者(発注者)の立場として、再委託を禁止したい場合、第三者に再委託を禁止したり、制限する条項を定める必要があります。少なくとも、第三者に再委託を可能とする条項を受け入れるとしても、再委託先の管理監督は、受託者(受注者)が責任を負うことを確認する条項は規定しておくべきといえます。

再委託先の責任に関する条項:

  1. 受託者は、本条の定めに従い、本件業務の一部を第三者に再委託することができる。
  2. 前項の場合、受託者は、再委託先との間で、本契約に基づいて受託者が委託者に対して負担するのと同等の義務を再委託先に負わせる契約を締結する。
  3. 受託者は、再委託先の業務の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。

⑥下請法の対象取引となっていませんか?

 業務委託では、委託者(発注者)が受託者(受注者)に対して業務を委託する場合、下請法(*)の対象取引となっていないか確認する必要があります。

 委託する業務が下請法の対象取引であるかどうかは、①取引当事者の資本金の区分と②取引内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から定め、この2つの条件を満たす取引に下請法が適用されます。

 業務委託がこの2つの要件を満たし、下請法の対象取引となった場合、委託者は親事業者、受託者は下請事業者となり、委託者(親事業者)は、受託者(下請事業者)に対して、書面の交付義務や支払期日を定める義務などを負います。その他にも、下請代金の減額や受領拒否、買いたたき等の禁止事項が課されます。

 委託者(親事業者)は、受託者(下請事業者)に対して、親事業者の義務や禁止事項に違反すると、下請法に違反することになってしまいます。 
委託者(親事業者)が下請法に違反した場合、公正取引委員会より是正措置の勧告等が行われることがあります。

 このような事態を回避するため、対象となる取引が下請法の対象となるかどうかを確認する必要があります。コンプライアンス経営が求められる現代社会において、下請法の遵守は無視することができません。

*下請法とは、「下請代金支払遅延等防止法」の略称で、下請取引の公正化や下請事業者 の利益保護を目的としており、中小企業政策の重要な柱となっている法律です。下請法では、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるため、①親事業者の義務や②親事業者の禁止事項を定めています。

⑦フリーランス新法の対象となる可能性があります。

 2023年5月12日に、フリーランスと事業者との取引を適正化し、フリーランスの就業環境を保護することを目的とした新しい法律、「フリーランス新法」が公布されました。フリーランス新法は、2024年秋ごろに施行予定です。フリーランス新法の詳細は、今後、公正取引委員会や厚生労働省のガイドライン等で公表される予定です。

 このフリーランス新法では、事業者は、一定の要件を満たしたフリーランスに対して業務を委託する場合、取引条件や報酬の支払期日を書面で明示する義務やフリーランスの就業環境を整備する義務を負います。

 事業者がこれらの義務を怠り、フリーランス新法に違反した場合、指導や罰則が適用される可能性があります。

 フリーランス新法が施行された後は、フリーランス新法の適用の有無や内容を確認し、その対応が必要となってきます。

7.業務委託契約書の作成・チェックは法律事務所(弁護士)に依頼できます。

 業務委託契約は、取引の全体像やスキームを把握し、法的性質を理解したうえで、作成する必要があります。法的性質を十分に検討せず、業務委託契約書を作成すると、当事者間で意図しない効果やリスクが発生することがあります。

 また、業務委託契約書では、委託者と受託者のいずれの立場になるかによって、各条項について不利益やリスクが発生したりすることもあるため、契約当事者の立場を意識しながら、各条項の内容を検討する必要があります。

 弁護士は、業務委託契約書の作成・チェックを含めて対応できますので、是非、お気軽に、お問合せ下さい。

弁護士に依頼できる内容:

  1. 業務委託契約書の作成
  2. 業務委託契約書のリーガルレビュー
  3. 取引内容や契約条項の協議や交渉のアドバイス・同席
  4. 業務委託契約に起因した紛争・訴訟の対応(代理交渉を含む。)
  5. コンプライアンス違反の対応(下請法、独占禁止法、フリーランス新法)

8.業務委託契約の作成・チェックは、かける法律事務所にご相談ください。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

 顧問契約サービスでは、業務委託契約書の作成だけではなく、業務委託契約書の修正や法的アドバイス(リーガルレビュー)も対応可能です。お客様のニーズにあわせ、リーズナブルに、かつ、迅速に対応いたします。

 実務担当者向け契約書研修やコンプライアンス研修も引き受けていますので、是非一度お問い合わせください。

細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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