法律コラム

Q&A<株主総会・取締役会対応>株式譲渡契約とは?買主(譲受人)の立場から考える株式譲渡契約書のチェックポイントを解説します。

2024.02.19

相談例:

  1. 株式を購入する方法を教えてください。
  2. 株式を購入するために必要となる法律上の手続を教えてください。
  3. 株式譲渡契約書に問題がないか知りたいです。

株式譲渡契約書とは?

 株式譲渡契約書とは、株式譲渡に関する事項を定めた契約書のことです。株式譲渡契約書には、対象株式の情報(会社名、株主名、株式の種類・数)や譲渡金額や支払方法等が記載されています。

 株式譲渡は、会社の経営権の移転を伴ったり、譲渡代金が高額に及ぶ場合があり、重要な取引といえます。

 また、会社法に従って株式譲渡契約書を作成する必要があるため、不備がないように作成する必要があります。

株式譲渡に必要となる会社法上の手続

1.譲渡制限株式における会社の承認手続

 会社法では、原則として、株式譲渡の自由を認めていますが(会社法127条)、ほとんどの中小企業等では、株式譲渡の制限を定款で定めており、これを譲渡制限株式といいます。

 譲渡制限株式では、定款の定めを確認する必要がありますが、株式譲渡について、取締役会設置会社では取締役会の承認が、取締役会非設置会社では株主総会の承認が必要となります(会社法139条1項)。

 そのため、譲渡制限株式を有効に譲り受けるためには株主総会又は取締役会の承認が必要となるため、買主(譲受人)としては、株式譲渡の承認手続の内容を確認する必要があります。

2.株券発行会社における株券の交付

 株券不発行会社(株券を発行する旨の定款の定めがない会社をいいます。)では、買主(譲受人)と売主(譲渡人)との間では株式譲渡に株券の交付は不要です。

 これに対して、株券発行会社では、株式譲渡は、株券を買主(譲受人)に交付しなければ、その効力が発生しないとされています(会社法128条1項)。

 そのため、買主(譲受人)の立場から、株式譲渡の対象となる株式会社が株券発行会社か、それとも、株券不発行会社かを確認して、仮に株券発行会社であれば、株式譲渡に伴い、株券の交付を受ける必要があります。

3.株主名簿の書換

 買主(譲受人)が会社に対して株主の地位を主張するためには、株主名簿の書換手続が必要となります。

 株主名簿の書換のためには、原則として、売主(譲渡人)の協力も必要となるため(会社法133条2項)、売主(譲渡人)との間で株主名簿の書換手続の方法を確認しておく必要があります。

株主名簿の記載事項:

  1. 株主の氏名又は名称及び住所
  2. 株主の有する株式の数
  3. 株主が株式を取得した日
  4. 株券発行会社では株式の株券の番号

買主(譲受人)の立場から考える株式譲渡契約書の注意点

1.対象株式の特定

 株式譲渡契約では、譲渡の対象となる株式(対象株式)を特定する必要があります。対象株式の記載を間違えると、買主(譲受人)が希望する対象株式を取得できなかったり、売主(譲渡人)との間でトラブルが発生することになります。

 対象株式は、株式の対象となる会社名・住所、株式の種類(普通株式や種類株式)及び株式の数によって特定されます。

 買主(譲受人)は、株式譲渡契約書の作成に際して、譲渡対象となる株式について、対象会社が特定されているか、株式の数が特定されているか、株式の種類が特定されているかを確認する必要があります。

 これを間違ってしまうと、株式譲渡契約が無効とされることにもなるので、慎重に確認する必要があります。

2.売主(譲渡人)が対象株式を譲渡する権限を有していること

 株式譲渡契約によって買主(譲受人)が有効に対象株式を譲り受けるためには、売主(譲渡人)が対象株式を譲渡する権限を有していることが必要となります。

 株式は、有体物(自動車や自転車等の「物」)と異なり、無体物であり、目に見えるものではないため、特に、売主(譲渡人)が対象株式を譲渡する権限について、慎重に確認する必要があります。

 実際、売主(譲渡人)が別の第三者に対して対象株式を譲渡してしまっている事例もあって、買主(譲受人)が対象株式を有効に取得できないというケースもあります。

 対象株式の譲渡権限を確認するためにも、買主(譲受人)から、以下の資料を事前に確認しておくことが望ましいといえます。

  1. 会社の謄本
  2. 株主名簿
  3. 株券(もしあれば)

 また、万が一、売主(譲渡人)が対象株式を譲渡する権限を有していなかったときに備えて、表明保証条項を株式譲渡契約書に規定しておくことも重要です。表明保証条項とは、売主(譲渡人)が、契約締結日や譲渡日等の一定の時点において、財務や法務に関する情報について、その内容が正しいことを表明し、保証することをいいます。

 売主(譲渡人)が対象株式を譲渡する権限を有していることを表明保証する条項があれば、売主(譲渡人)が対象株式を適法に保有しているという担保になります。万が一、この表明保証条項に違反した場合、買主(譲受人)は、売主(譲渡人)に対して、株式譲渡契約の解除や損害賠償を求めることもできます。

3.表明保証条項の検討

 表明保証条項とは、売主(譲渡人)が、契約締結日や譲渡日等の一定の時点において、財務や法務に関する情報について、その内容が正しいことを表明し、保証することをいいます。

 表明保証条項を定めることで、売主(譲渡人)側が、株主譲渡契約の成否にかかわる重要な情報を正確に買主(譲受人)に開示し、それが正しいことを保証することによって、株式譲渡に関するリスクを回避し、円滑に株式譲渡契約を締結することができるようになります。

 また、売主(譲渡人)に表明保証条項違反があったことをもって、買主(譲受人)が株式譲渡契約の解除、損害賠償請求をすることができる旨定めておくことで、表明保証条項の実効性を担保することができます。

 適切な表明保証条項を定めておくことで、買主(譲受人)は、株式譲渡契約におけるリスクを最小限にして契約締結を進めることができます。

 表明保証条項の内容は、取引の規模や対象会社の性質に応じて、株式譲渡取引の交渉過程の中で合意します。

表明保証条項の具体例:

  1. 設立及び資格
    売主及び対象会社は、日本法の下で適法に設立され、有効に存続している株式会社であり、また、その財産を所有しかつ現在行っている事業を遂行するために必要な権利能力、行為能力その他の能力を有している。
  2. 本契約の有効性及び執行可能性
    売主は、本契約を締結し、本契約に従ってその義務を履行する完全な権限を有しており、また、本契約の締結に必要な全ての法令等及び定款その他の社内規則に従った必要な社内手続を全て履行しており、必要な許認可、届出等の手続が完了しており、何らかの条件が付されている場合にはかかる条件に違反していない。本契約は、売主の適法、有効かつ法的拘束力のある義務を構成し、売主に対し、かかる義務の強制執行が可能である。
  3. 手続の履践
    売主及び対象会社は、本株式譲渡に関し、必要な全ての法令等及び定款その他の社内規則に従った必要な社内手続を全て履行しており、必要な許認可、届出等の手続が完了しており、何らかの条件が付されている場合にはかかる条件に違反しておらず、クロージング日において、買主は、本株式に対する質権、留置権、譲渡担保権その他の担保権、売買予約、その他の制限等(以下「担保権等」という。)の負担なく、本株式にかかる完全な権利を取得できる。

4.株式譲渡の手続条項

 株式譲渡契約では、対象株式が譲渡制限株式となることも考えられます。そのため、買主(譲受人)として、有効に株式を取得することができるように、株式譲渡の具体的な手続内容についても、株式譲渡契約で定めておくことが考えられます。

 株式譲渡契約書では、会社法に従った手続を踏まえて、買主(譲受人)として有効に株式を取得することができるように検討する必要があります。

  1. 会社の承認手続(取締役会又は株主総会)
  2. 株券の交付の有無
  3. 株主名簿の書換手続

5.買主による誓約事項や競業避止義務

 株式譲渡契約では、買主(譲受人)が株式を取得した後、経営権を取得することもあり、円滑に会社経営をしていくために、売主(譲渡人)による競業避止義務や誓約事項を定めておく必要がある場合もあります。

第●条(競業避止義務)

  1. 売主は、クロージング日以降、3年が経過する日までの間に限り、自己又は第三者のために、対象会社の事業と同一又は類似する事業を行ってはならないものとする。
  2. 売主は、本締結日以降、対象会社の役員又は従業員(契約形態、名称を問わず、正社員、パートタイマー、契約社員、派遣社員その他社内で業務を行う者をいう。)を勧誘し、対象会社から引き抜き又は引き抜こうとする行為、退職を促す行為その他のこれに類する行為を行ってはならないものとする。

第●条(誓約事項)

 売主は、本締結日からクロージング日までの間、善良な管理者の注意をもって、対象会社をして、対象会社において本締結日以前に行われていたのと実質的に同一かつ通常の業務の範囲において、その業務の執行並びに財産の管理及び運営を行わせるものとする。

株式譲渡契約書の作成・チェックは法律事務所(弁護士)に依頼できます。

 株式譲渡契約書は、取引の全体像やスキームを把握し、法的性質を理解したうえで、作成する必要があります。法的性質を十分に検討せず、株式譲渡契約書を作成すると、当事者間で意図しない効果やリスクが発生することがあります。

 また、株式譲渡契約書では、買主(譲受人)と売主(譲渡人)のいずれの立場になるかによって、各条項について不利益やリスクが発生したりすることもあるため、契約当事者の立場を意識しながら、各条項の内容を検討する必要があります。

 さらに、買主(譲受人)の立場から不利益な条項が提案された時、どのようなリスクがあるのか、また、代替案を提案できるのかを検討する必要があります。

 弁護士は、株式譲渡契約書の作成・チェックを含めて対応できますので、是非、お気軽に、お問合せ下さい。

弁護士に依頼できる内容:

  1. 株式譲渡契約書の作成
  2. 株式譲渡契約書のリーガルレビュー
  3. 契約内容や契約条項の協議や交渉のアドバイス・同席
  4. 株式譲渡契約書に起因した紛争・訴訟の対応(代理交渉を含む。)
  5. 株式譲渡に係るスキームや取引内容の検討

株式譲渡契約書の作成・チェックは、かける法律事務所にご相談ください。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

 顧問契約サービスでは、株式譲渡契約書の作成だけではなく、株式譲渡契約書の修正や法的アドバイス(リーガルレビュー)も対応可能です。お客様のニーズにあわせ、リーズナブルに、かつ、迅速に対応いたします。

 実務担当者向け契約書研修やコンプライアンス研修も引き受けていますので、是非一度お問い合わせください。

林 遥平

このコラムの執筆者

弁護士林 遥平Yohei Hayashi

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