法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>名誉毀損罪・侮辱罪とは?インターネット上の誹謗中傷における刑事告訴について弁護士が解説します。

2024.01.17

よくある相談例:

  1. 名誉毀損罪や侮辱罪に当たるか知りたい。
  2. SNSで誹謗中傷を受けており、刑事告訴したい。
  3. 告訴状の作成方法や警察への相談方法がわからない。

名誉毀損罪とは?

 名誉毀損罪とは、公然と、他人の社会的評価を害するに足りる事実を摘示することによって成立する犯罪です(刑法230条)。

 「公然」とは、摘示された事実を不特定又は多数の人が認識しうる状態のことをいいます。インターネット上で他人の社会的評価を低下させる投稿を行った場合も、不特定多数の閲覧者にその事実を流布することになるため、公然性が認められ、名誉毀損罪が成立します。

 もっとも、表現の自由との関係から、社会的評価を低下させる投稿を行った場合でも、①その投稿が公共の利害に関する事実で、②専ら公益を図る目的で、③摘示された事実が真実であることの証明があった場合、処罰しないとされています(刑法230条の2第1項)。

刑法230条1項(名誉毀損罪)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

侮辱罪とは?

 侮辱罪とは、事実を摘示せずに、公然と人を侮辱した場合に成立する犯罪です(刑法231条)。名誉毀損罪と同様で、インターネット上で他人に対して侮辱的な価値判断を示す投稿を行った場合でも、侮辱罪が成立します。

刑法231条(侮辱罪)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

名誉毀損罪と侮辱罪の違いとは?

① 具体的な事実の摘示の有無

 名誉毀損罪と侮辱罪の一番大きな違いは、具体的な事実の摘示があるかどうかという点にあります。

 例えば、「A会社は、不正な経理を行って利益を水増ししている」という投稿は、具体的な事実を指摘しているといえます。そのような具体的な事実を指摘することによって、A会社の社会的評価(外部的信用)を低下させているため、名誉毀損罪に当たります。

 他方で、「B会社のXはアホで無能なやつだ」という投稿についてはどうでしょうか。これは、具体的な事実を摘示しているとまではいえず、「アホ」や「無能」といった価値判断を示しているにすぎません。そのため、名誉毀損罪ではなく、侮辱罪が成立すると判断されます。

② 法定刑の違い

 名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金となっています。

 これに対し、侮辱罪の法定刑は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となっており、名誉毀損罪の方が法定刑が重くなっています。

 名誉毀損罪は、具体的な事実の摘示がなされる点で、社会的評価の侵害がより大きくなりやすいため、侮辱罪よりも法定刑が重くなっています。

刑事告訴の必要性ー親告罪ー

 名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪となっています(刑法232条)。

 親告罪とは、被害者等の告訴権者による告訴がなければ、検察官が起訴できない犯罪です。

 親告罪については、告訴をする期間が制限されており、犯人を知った日から6か月を過ぎると、刑事告訴をすることができなくなります(刑事訴訟法235条)。

 また、告訴期間とは別に公訴時効(刑事訴訟法250条)による期間制限もあります。名誉毀損罪・侮辱罪については、いずれも犯罪行為から3年が経過した時点で、公訴時効が成立し、検察官が起訴することができなくなります。

 このように、名誉毀損罪や侮辱罪について刑事告訴を行う場合、法律上の期間制限があります。そのため、対象となる名誉毀損等の投稿が行われた時期によっては、刑事告訴ができないこともあり、注意が必要です。

刑法232条(親告罪)
この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

刑事訴訟法235条本文
親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。

刑事告訴における注意点

 インターネット上の誹謗中傷についても、それが名誉毀損罪や侮辱罪といった犯罪が成立する場合には、刑事告訴をすることが可能です。

 注意点として、インターネット上の誹謗中傷の場合、警察が告訴受理に難色を示すことがあります。

 というのも、インターネット上の誹謗中傷については、名誉毀損罪等の犯罪が成立するかどうかの判断が難しい場合があり、また、被害の深刻さが十分に伝わらないことがあるからです。

 また、投稿者を特定することが難しく、手間もかかることから、告訴の受理について、警察が消極的な対応を行うこともあります。

 さらに、インターネット上の誹謗中傷では、対立当事者間において、双方ともに名誉毀損や侮辱が疑われる言動があって、プライベートな問題と判断され、警察が刑事告訴になじまないと判断することもあります。

 もっとも、インターネット上の誹謗中傷については、2022年に侮辱罪の法定刑が引き上げられたように(※)、厳罰化の流れにあります。

 そのため、最近は、インターネット上の誹謗中傷について、刑事告訴も真摯に対応してもらえることもあります。当事務所がこれまでに担当したインターネット上の誹謗中傷の案件についても、刑事告訴が受理されたケースも多くあります。

 もちろん、刑事告訴を受理してもらうためには、犯罪が成立することや被害の深刻さ(事件性があること)、投稿者の特定について、警察に丁寧に説明をする必要があるため、刑事告訴のハードルは決して低くはありません。ただ、粘り強く、警察に説明し、告訴を受理してもらうように働きかけていくことが大切となります。

※侮辱罪の法定刑については、2022年7月7日に改正がされました。もともとは「拘留又は科料」のみでしたが、改正により、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に変わり、法定刑が引き上げられました。それに伴い、公訴時効期間も1年から3年に変更されることになりました。

刑事告訴が受理されると、どうなりますか?

 刑事告訴が受理された場合、捜査機関による捜査が始まります。

 インターネット上の誹謗中傷の場合は、投稿者が不明の場合もあり、その場合は、捜査機関において、投稿者を特定するための捜査も行われます。被害者の方で投稿者特定のための手続(発信者情報開示請求など)を並行して行う場合は、捜査機関と協力しながら、投稿者の特定を進めることも必要です。

 投稿者が特定できた場合には、必要に応じて取調べや逮捕等が行われ、起訴されるかどうかが決まります。

 また、被害者の方で発信者情報開示請求手続を行って投稿者を特定した上で、刑事告訴を行うこともあります。

刑事告訴について弁護士に依頼するメリット

 刑事告訴を行うには、告訴状の作成はもちろんのこと、実際に警察署へ行って、刑事告訴の具体的内容や被害状況を警察に説明をする必要があります。

 これらの手続を適切・迅速に行うには、刑法や刑事訴訟法に関する知識や経験が必要となるため、被害者本人だけで行うことは、かなりの時間と労力が必要となりますし、被害者本人の精神的な負担も大きいといえます。

 これらの手続を弁護士に依頼することによって、迅速に適切な内容の告訴状を作成することができます。

 また、告訴状の提出の際にも警察署に同行ができるため、警察とのやりとりもスムーズに進めることができます。それによって、被害者本人だけで手続を進めるよりも、告訴を受理してもらえる可能性も高まり、また、迅速に手続を進めることができます。

 例えば、当事務所が担当した案件では、事案の内容が非常に複雑で、また、投稿者も不明な事案では、最初から弁護士が警察署に同行し、弁護士が警察と密に電話や郵送でのコミュニケーションを行い、綿密な打合せを行うことによって、事案の内容や被害の深刻さが伝わり、刑事告訴が受理されるということもあります。

弁護士法人かける法律事務所のサービスのご案内

 弁護士法人かける法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷についての刑事告訴手続の他、お客様のニーズに合わせた様々なサービスを提供しています。

 「刑事告訴を検討している」、「告訴状を作成してほしい」、「どれくらいの時間と費用がかかるのか」等という不安や疑問に対して、法的な観点からアドバイスいたします。

 また、インターネット上の誹謗中傷問題について、継続的に、かつ、リーズナブルに相談できる「顧問契約サービス」もあります。

 当事務所では、「安心を提供し、お客様の満足度を向上させる」という行動指針(コアバリュー)に従い、各サービスを提供していますので、是非、お問合せください。

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鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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