法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>名誉毀損における同定可能性について、弁護士が解説します。

2023.02.27

インターネット上に「〇〇株式会社に所属する✕✕さんは、痴漢の常習犯だ」という書き込みがありました。〇〇は実際に自分が所属する会社で、✕✕は自分の苗字です。痴漢なんてしたことはないのですが、名誉棄損として、書き込みをした人に法的責任を追及できますか?

〇〇株式会社に✕✕という苗字の人があなたしかいないのであれば、名誉棄損として法的責任を追及できる可能性が高いです。

1. 「同定可能性」とは?

 インターネット上の誹謗中傷につき、誹謗中傷の対象者が、投稿者に対して、名誉棄損として民事責任や刑事責任を追及する場合、その投稿が対象者本人の名誉を棄損していることが必要となります。

 この点、対象者の名前や住所を摘示した上で誹謗中傷がなされた場合、誹謗中傷の対象が誰なのか明確です。

 ただ、インターネット上の投稿の中には、対象者の仮名 (ハンドルネーム) や所属する組織を摘示するに過ぎない場合等、一般人からみて必ずしも誹謗中傷の対象者を特定できるとは限らないものもあります。

 このような場合にも、対象者本人の名誉が棄損されたといえるのかという問題が、特定・同定可能性の問題です。 (以下「同定可能性」といいます。)

 誹謗中傷の内容が悪質なものであっても、そもそも対象者の同定可能性がない場合には、名誉棄損は成立しないということになります。

2. 同定可能性の判断基準

(1) 基本的な判断基準

 同定可能性の判断は、いわゆる「一般読者基準」によって判断されるというのが、実務上の基本的な考え方となります。つまり、一般の第三者の見方を基準に考え、一般の第三者がその投稿を見た時に、その第三者が、誹謗中傷の対象者を特定できる可能性があるかという基準から判断されます。

①具体例1 (対象者の名前まで特定できる場合)

 例えば、インターネットの口コミで、「大阪市〇〇区〇〇町にあるカタカナ7文字のマッサージ屋は、まともなサービスを提供しないぼったくりである」という投稿がされたとします。

 この投稿では、具体的なお店の名前は摘示していませんが、大阪市〇〇区〇〇町にあるカタカナ7文字のマッサージ屋が一つしかないのであれば、一般の第三者がこの投稿を見たときに、インターネット等で検索してお店の場所と名前を特定することができるため、同定可能性が認められることになります。

②具体例2 (対象者の名前が分からない場合)

 例えば、「昨日のテレビ番組〇〇の中でインタビューを受けていたあの人物は、自分の知り合いで、実は、強盗をして刑務所に入っていたことがある」という投稿がされたとします。 (そのテレビ番組の中でインタビューを受けていたのはその人物だけとします。)

 この投稿では、番組中にテロップで名前が出ていなければ、その人物 (対象者) のことを知っている友人でもない限り、一般の第三者が対象者の名前を知ることは基本的にできません。

 もっとも、対象者の名前がわからなくても、テレビ番組を見ていた人からすれば、「昨日のテレビ番組〇〇でインタビューを受けていたあの人物」というのはまさにその人しかいないのであり、その意味で、人物としては特定できていることになります。

 このように、一般の第三者からみて、対象者の名前が分からないとしても、「あの人」のことだと特定しうるのであれば、同定可能性が認められることになります。

 また、これの応用として、対象者が社会生活上用いている仮名 (ハンドルネームやペンネーム) を摘示して誹謗中傷をした場合でも、その仮名が対象者の呼称として一定程度広く社会的に定着している場合、対象者の本名が明らかにならなくても、対象者本人を特定するものとして、名誉棄損が認められるのが一般的です。

 裁判例でも、作家のペンネーム、芸能人の芸名の他に、源氏名 (風俗店で従事する人が自身の呼称として、源氏物語にちなんで名乗る名前) を摘示した投稿について、対象者本人に対する名誉棄損を認めたものが数多くあります。

③具体例3 (対象者のことを知っている人物が限られている場合)

 例えば、「2018年に〇〇県の✕✕高校の3年A組に在籍していたT.Kは、今はクスリ (違法薬物) の密売をしているらしい」 (T.Kはイニシャル) という投稿がされたとします。

 上に述べたように、同定可能性の判断は、一般の第三者からみて対象者を特定できる可能性があるか、という基準から判断されるのが一般的な考え方です。

上の投稿では、実際に2018年前後に✕✕高校に通った人でなければ、T.Kさんが誰のことなのか、一般の第三者は特定できないのが普通です。そうすると、同定可能性はないという結論になるといえそうな気がします。

 もっとも、2018年前後に✕✕高校を卒業した人の中では、T.Kさんが誰なのか特定できる人物が一定の範囲で存在するはずです。そうすると、T.Kさんが誰なのか特定できる人達が発信元となり、不特定多数の第三者に対して、T.Kさんを特定する情報が伝わっていくことで、それまでT.Kさんのことを知らなかった一般の第三者がT.Kさんを特定する可能性はあります。このように、もともとT.Kさんのことを知っている人達から伝播する可能性まで含めて考えるならば、一般の第三者がT.Kさんを特定できる可能性があるということができます。

 このように、対象者のことを知る限られた者から不特定多数の第三者に伝播する可能性があれば対象者の同定可能性があるとみなす、という考え方を、伝播性の理論ということがあります。

 実際、裁判例においても、この伝播性の理論の考え方を用いて名誉棄損を認めたものは多くあります。もちろん、伝播の可能性の程度等、各事案ごとの個別的な判断にはなりますが、一般の閲覧者からみて対象者が特定できなくても、ある特定の範囲の閲覧者からみて対象者を特定できる場合は、そこから不特定多数に伝播する可能性があるとして、対象者の同定可能性を認める傾向にあります。

 上の具体例でも、2018年前後に✕✕高校に在籍した人は一定数いることから、在籍していたクラスとT.Kというイニシャルから対象者が特定できるのであれば、対象者の同定可能性があると判断される可能性は十分にありえます。

3. ポイント

  1. 名誉棄損の有無の判断においては、誹謗中傷の対象者の同定可能性があることが前提となり、その判断は、原則として、一般の第三者からみて対象者を特定することができるかという一般読者基準で判断される。
  2. 対象者の同定可能性の判断では、一般の第三者からみて「あの人物だ」と特定できる可能性があれば足り、対象者の実名を知り得ることは必須ではない。
  3. もともと対象者のことを知っている人が限られているとしても、もともと対象者のことを知っている人物から不特定多数に伝播し、一般の第三者か対象者を特定する可能性があるのであれば、対象者の同定可能性があるという判断がされることもある。

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鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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