
不動産相続に関するよくある相談
父が亡くなり、兄と弟の2人が相続人になりました。
父の主な財産は、父名義の土地・建物(実家)です。兄は以前からこの実家で生活しており、父が亡くなった後も住み続けたいと考えています。一方、弟は別の場所で生活しているため、実家に住む予定はありません。
このような場合、実家をどのように分ければよいのでしょうか。
不動産は預貯金と違って、単純に半分ずつに分けることが難しい財産です。そのため、相続人の一人が実家に住んでいる場合には、「誰が不動産を取得するのか」「他の相続人には何を渡すのか」を考える必要があります。
本コラムでは、「父が亡くなり、相続人は兄と弟の2人。主な相続財産は兄が住んでいる実家(土地・建物)」というケースを例に、不動産の遺産分割方法について、分かりやすく解説します。
目次
不動産はどのように分ける?
(1)今回のケース
まず、今回のケースを次のように設定します。
父が亡くなった場合、父の財産は相続の対象となります。相続人が複数いる場合、遺産分割によって、誰がどの財産を取得するのかを決める必要があります(民法898条、907条)。
今回のように兄弟2人が相続人であれば、原則としてそれぞれ2分の1が法定相続分です。
もっとも、「相続分が2分の1だから、実家も必ず2分の1ずつ所有しなければならない」ということではありません。
遺産分割では、相続人同士の話し合いによって、実際に誰がどの財産を取得するのかを決めることができます。
(2)不動産の分け方
不動産の遺産分割には、主に次の4つの方法があります。
どの方法が適しているかは、不動産の利用状況や相続人の希望、経済状況などによって異なります。
今回のケースに当てはめて、それぞれ見ていきます。
方法 ①「現物分割」―遺産をそのまま分ける方法
(1)現物分割とは?
「現物分割」とは、遺産を売却せず、そのままの形で相続人に分ける方法です。
例えば、遺産として「実家」と「別の土地」がある場合、
という分け方が現物分割です。
土地そのものを分筆して、「実家の建っている部分を兄、残りの土地を弟」という形で分けることも考えられます。
(2)現物分割のメリット・デメリット
現物分割のメリットは、不動産を売却せず、そのまま残せることです。
例えば、実家以外にも同程度の価値の不動産があれば、「実家は兄、別の不動産は弟」と分けることで、比較的すっきりと解決できます。
一方、不動産が実家しかない場合には、現物分割が難しいことがあります。
土地を無理に分けると、土地が狭くなったり、形が悪くなったりして、かえって不動産全体の価値が下がることがあります。また、1棟の建物を兄弟で物理的に半分に分けることは通常困難です。
そのため、今回のように主な相続財産が一つの実家だけで、兄がそこで生活しているケースでは、現物分割が適さないことも多いでしょう。
方法 ②「代償分割」―兄が実家を取得して、弟にお金を支払う方法
(1)代償分割とは?
今回のケースで、まず検討したいのが「代償分割」です。
代償分割とは、一人の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人へ「代償金」と呼ばれるお金を支払う方法です。
例えば、実家の評価額が3000万円で、兄弟の相続分がそれぞれ2分の1だとします。
この場合、
兄:3000万円の実家を取得する
弟:兄から1500万円の代償金を受け取る
という分け方が考えられます。
(2)代償分割のメリット
今回のケースでは、代償分割には大きなメリットがあります。
兄は実家を単独で取得できるため、そのまま住み続けることができます。
一方、弟も、兄が実家の所有権を取得する代わりに、自分の相続分に相当するお金を受け取ることができます。
また、実家を兄弟の共有名義にしないため、将来、「実家を売るか」「建て替えるか」といった問題で兄弟の意見が対立することも避けやすくなります。
つまり、「兄は実家に住み続けたい」「弟も自分の相続分はきちんと受け取りたい」という双方の希望を実現しやすい方法といえます。
(3)代償分割のデメリット
もっとも、代償分割には大きな問題があります。
それは、兄が代償金を準備できるかという点です。
今回の例では、兄が弟に1500万円を支払う必要があります。兄に十分な預貯金がなければ、代償分割を選びたくても実現できません。
また、「実家をいくらと評価するのか」という問題もあります。
兄としては「実家は2500万円程度だ」と考えている一方、弟は「3500万円程度の価値がある」と考えている場合、代償金の金額も大きく変わります。
そのため、代償分割を行う場合には、不動産の評価額と代償金の支払方法をきちんと決めておくことが重要です。
方法 ③「換価分割」―実家を売って、そのお金を分ける方法
(1)換価分割とは?
「換価分割」とは、不動産を売却して、その売却代金を相続人で分ける方法です。
例えば、実家を3000万円で売却できた場合、売却に必要な費用などを差し引いた残額を、兄弟で分けることになります。
(2)換価分割のメリット・デメリット
換価分割の大きなメリットは、公平に分けやすいことです。
不動産そのものを分けるのではなく、お金に換えてから分けるため、「兄がどの土地を取るか」「弟がどの土地を取るか」といった問題がありません。
また、兄が代償金を準備できない場合でも、実家を売却すれば、その代金から弟の相続分を確保できます。
一方、最大のデメリットは、実家を手放すことになることです。
今回のケースでは、兄が実家に住んでいるため、実家を売却すれば、兄は基本的に別の住居を探さなければなりません。
そのため、兄が実家に住み続けることを強く希望している場合には、まず代償分割などを検討し、それが難しい場合に換価分割を検討することになるでしょう。
なお、実際に不動産を売却する場合には、仲介手数料などの費用や、売却によって利益が出た場合の税金についても確認が必要です。
方法 ④「共有分割」―兄弟2人の共有名義にする方法
(1)共有分割とは?
「共有分割」とは、一つの不動産を複数の相続人で共有する方法です。
今回のケースであれば、
兄:実家の持分2分の1
弟:実家の持分2分の1
として、兄弟2人の共有名義にすることが考えられます。
この方法であれば、兄が弟に1500万円をすぐに支払う必要はありません。また、実家を直ちに売却する必要もないため、兄は当面そのまま生活することができます。
一見すると、最も簡単で公平な方法にも思えます。
(2)共有分割は将来のトラブルに注意
しかし、共有分割には注意が必要です。
例えば、数年後に弟が、「自分は実家を使っていないので売却したい」と考えるようになったとします。
一方、兄は、「自分の家なので売りたくない」と考えるかもしれません。
そうなると、兄弟で実家の扱いについて意見が対立します。
また、兄や弟が亡くなると、その持分をさらにその子どもなどが相続する可能性があります。そうすると、当初は兄弟2人だけだった共有関係に、次の世代の相続人が加わり、権利関係がさらに複雑になることもあります。
そのため、「とりあえず兄弟2分の1ずつにしておこう」という理由だけで共有名義にすることは、あまりおすすめできません。
兄が住んでいる実家はどう分けるのがよい?
ここまで4つの方法を説明しましたが、今回のケースではどの方法がよいのでしょうか。
重要なのは、次の3点です。
- 兄は今後も実家に住み続けたいのか
- 弟の相続分をどのように確保するのか
- 兄は弟に代償金を支払うことができるのか
兄が実家に住み続けることを希望し、代償金を支払うことができるのであれば、まずは代償分割を検討することが考えられます。
代償分割であれば、兄は実家に住み続けることができ、弟も自分の相続分に応じた金銭を受け取ることができるからです。
一方、兄に代償金を支払うだけの資力がない場合には、他の相続財産を使って調整できないかを検討します。それでも調整できなければ、実家を売却して代金を分ける換価分割も選択肢になります。裁判所の案内でも、不動産を取得したい相続人に代償金を支払う能力がない場合には、換価分割が考えられるとされています。
反対に、共有分割は、目の前の問題を解決したように見えても、将来の問題を残してしまう可能性があります。
したがって、今回のケースでは、おおむね、
代償分割を検討する
↓
代償分割が難しければ、他の相続財産による調整を検討する
↓
それでも難しければ、換価分割を検討する
という順番で考えると分かりやすいでしょう。
もっとも、どの方法が適しているかは、不動産の価値、兄の経済状況、他の相続財産の有無などによって異なります。
不動産を分ける前に確認したいポイント
不動産の遺産分割を考える場合には、分割方法を決める前に、次の点を確認しておくことが重要です。
- 現在、誰が不動産を使用しているのか
- 今後、誰が不動産を使用したいのか
- 不動産の価値はいくらなのか
- 預貯金など、不動産以外の相続財産がどの程度あるのか
- 不動産を取得する相続人が代償金を支払えるのか
- 売却する場合、どの程度の金額で売却できそうか
特に、代償分割を検討する場合には、不動産の評価額が重要です。
不動産には、固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社の査定価格など、目的によってさまざまな金額があります。
兄弟の間で評価額について意見が一致しない場合には、不動産会社による査定や、必要に応じて不動産鑑定士による鑑定なども検討することになります。
また、遺産分割の方法は一つに限定する必要はなく、複数の方法を組み合わせることもできます。例えば、「実家は兄が代償分割によって取得し、預貯金は弟が多めに取得して代償金を減らす」といった調整も可能です。
話し合いで決まらない場合
遺産分割は、まず相続人全員で話し合うことになります。
兄弟で合意できれば、その内容に従って遺産分割協議書を作成し、不動産の名義変更などの手続を行います。
しかし、
「兄は実家を取得したいが、弟が反対している」
「実家の評価額について意見が合わない」
「弟が求める代償金を兄が支払えない」
などの理由から、話し合いがまとまらないこともあります。
その場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停でも合意できない場合には、最終的に家庭裁判所が審判によって遺産の分け方を決めることになります。
そのため、実家を残したいなどの希望がある場合には、紛争が長期化する前に、どのような条件であれば相続人全員が納得できるのかを検討することが大切です。
ポイント&まとめ~「実家を残すこと」と「公平に分けること」の両方を考える~
不動産の遺産分割には、主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つの方法があります。裁判所も、不動産の分割方法としてこれら4つの方法を案内しています。
今回のように、兄が実家に住んでおり、弟は別の場所で生活しているケースでは、単純に「兄弟だから2分の1ずつ共有すればよい」と考えるのではなく、実際に誰が不動産を使うのかという事情を踏まえて分割方法を考えることが重要です。
兄が今後も実家に住み続けることを希望し、代償金を支払うことができるのであれば、代償分割は有力な選択肢になります。
一方、代償金を準備できない場合には、他の相続財産で調整したり、実家を売却して換価分割したりすることも検討する必要があります。
そして、共有分割は簡単な方法に見えますが、将来、売却や管理をめぐってトラブルになる可能性があります。そのため、「とりあえず共有にする」のではなく、できる限り将来のことまで考えて分割方法を決めることが大切です。
弁護士法人かける法律事務所のサポート
不動産を含む相続・遺産分割をサポートします。
弁護士法人かける法律事務所では、不動産を含む相続について、遺産分割の方針検討から他の相続人との交渉、調停・審判まで幅広くサポートしています。
主なサポート内容は、次のとおりです。
- 相続人・相続財産の調査
- 不動産を含む遺産分割方法の検討
- 不動産の評価方法に関するアドバイス
- 代償分割における代償金の検討
- 遺産分割協議書の作成
- 他の相続人との遺産分割交渉
- 遺産分割調停・審判への対応
- 不動産の売却を含む換価分割の検討
- 相続登記を見据えた遺産分割のサポート
不動産の相続では、単に法定相続分に従って財産を分ければよいとは限りません。
今回のように相続人の一人が実家に住んでいる場合には、「実家に住み続けたい」という希望と、「他の相続人も公平に財産を取得したい」という希望をどのように調整するかが重要になります。
当事務所では、単に遺産分割調停や審判を行うことだけを目的とするのではなく、不動産の利用状況、相続人それぞれの希望、不動産の評価額、代償金を支払うことができるかなどを踏まえ、できる限り将来のトラブルを残さない遺産分割の方法をご提案します。
「実家に住み続けたいが、他の相続人にどのように相続分を渡せばよいか分からない」「不動産の評価額について相続人同士で意見が合わない」「不動産を売却するべきか迷っている」など、不動産を含む相続・遺産分割でお困りの際は、お早めに弁護士法人かける法律事務所までご相談ください。
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