法律コラム

出版・広告・制作業界は要注意|フリーランス新法の勧告事例を弁護士が分析―業務委託契約の実務対応ポイント

よくある相談

  1. 制作内容が固まっていないため、最初の段階では報酬額や支払期日を決めず、後からメールや口頭で調整しています。問題はありますか?
  2. 制作物は検収後に請求書をもらい、その後に支払っています。出版業界では一般的な運用ですが、問題はありませんか?
  3. 長年付き合いのあるライターやデザイナーには、契約書を作成せず、メールや口頭で依頼しています。問題はありますか?

勧告事例の紹介

 2025年6月17日、公正取引委員会は、出版業界の事業者によるフリーランスとの取引について、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)に基づく勧告を行いました。

 本件では、出版社がフリーランスに対し、雑誌やコンテンツ制作に関する業務として、原稿執筆、写真撮影、イラスト制作、ヘアメイクなどの業務を委託していました。これらの業務は、出版・広告・制作業界において一般的に見られるフリーランスとの取引形態です。

 公正取引委員会の調査の結果、発注時において、業務内容や報酬額、支払期日などの取引条件を、書面又は電磁的方法により直ちに明示していなかったことが認められました。また、報酬の支払期日が明確に定められていなかったため、結果として法令で定められた支払期限までに報酬が支払われていないケースも確認されたとされています。

 フリーランス新法は、2024年11月に施行された法律であり、フリーランスとの取引において、取引条件の明示や報酬の支払期限などについて発注事業者に一定の義務を課しています。今回の勧告は、これらの義務に違反する行為が認められたとして、公正取引委員会が是正を求めたものです。

 この勧告は、出版・広告・制作などフリーランスとの取引が多い業界にとって、従来の業界慣行がそのままでは法令に適合しない可能性があることを示した事例として、大きな注目を集めました。

公正取引委員会による勧告事例の詳細は、こちら

勧告の内容

 公正取引委員会は、本件において、出版社によるフリーランスとの取引について、フリーランス新法に基づき是正を求める勧告を行いました。勧告の対象となった主な内容は、取引条件の明示義務および報酬の支払期日に関する義務です。

 まず、公正取引委員会は、発注時において、業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を、書面又は電磁的方法により直ちに明示していなかった点を問題視しました。フリーランス新法では、発注事業者はフリーランスに業務を委託する際、これらの取引条件を書面又は電子メール等の電磁的方法により明示する義務を負っています。

 また、報酬の支払期日が明確に定められていなかったことにより、結果として、法令で定められた支払期日までに報酬が支払われていないケースが確認されたとされています。フリーランス新法では、発注事業者は、フリーランスの給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う義務を負っています。

 公正取引委員会は、これらの行為がフリーランス新法に違反すると判断し、当該事業者に対して、今後は法令を遵守した取引を行うこと、社内体制の整備や再発防止策を講じることなどを求めました。

 今回の勧告は、出版・広告・制作などフリーランスとの取引が多い業界において、従来の業界慣行の見直しが求められる可能性があることを示すものといえます。

違反行為の解説~取引条件の明示義務、期日における報酬支払義務~

 今回の勧告事例を理解するためには、まずフリーランス新法が発注事業者にどのような義務を課しているのかを確認する必要があります。フリーランス新法では、フリーランスに業務委託を行う発注事業者(特定業務委託事業者)に対し、取引の適正化を図るため、いくつかの重要な義務が課されています。なかでも実務に直結するものが、「取引条件の明示義務」と「期日における報酬支払義務」です。

1. 取引条件の明示義務

 まず、取引条件の明示義務とは、フリーランスに業務を委託する際、発注事業者がその取引条件を直ちに書面又は電磁的方法により明示しなければならないというルールです。

 明示の方法としては、発注書などの書面のほか、電子メール、チャットツール、SNSのメッセージなどの電磁的方法も認められています。一方で、口頭や電話のみでの発注は認められていません。

 明示すべき取引条件としては、例えば次のような事項があります。

  • 発注者(業務委託事業者)とフリーランスの名称
  • 業務委託をした日(発注日)
  • 依頼する業務の内容
  • 納品日または役務提供を受ける期日
  • 納品場所または役務提供を受ける場所
  • 成果物を検査する場合は、その検査完了日
  • 報酬の額および支払期日
  • 金銭以外で報酬を支払う場合は、その支払方法

 出版・広告・制作業界では、「まず作業を始めてもらい、発注書や金額は後から決める」といった運用が見られることもあります。しかし、例えば次のような発注方法は、取引条件の明示義務に違反するおそれがあります。

  • 「とりあえず作業を始めてください。発注書は後で出します。」と依頼する
  • 「金額は後で相談して決めます」として報酬を定めずに発注する
  • 電話のみで業務を依頼し、メールなどで内容を確認しない

 このように、発注時点で取引条件が明確になっていない場合、フリーランス新法違反となる可能性があります。

2. 期日における報酬支払義務(いわゆる「60日ルール」)

 次に、報酬の支払に関しては、発注事業者は、フリーランスから成果物の納品や役務の提供を受けた日から起算して、60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う義務を負っています。

 支払期日の基本的な考え方は次のとおりです。

  • 納品・役務提供→支払期日を設定(60日以内)→その期日までに報酬を支払う

 例えば、4月1日に成果物を受領した場合、遅くとも5月31日までに報酬を支払う必要があります。

 なお、支払期日を定めていない場合には、成果物を受け取った日がそのまま支払期日となる点にも注意が必要です。

 実務上、次のような運用は違反となる可能性があります。これらの場合、支払期日の起算点が納品日や役務提供日ではないため、結果として60日を超える可能性があるためです。

  • 「請求書を受け取った日から60日以内に支払う」と定める
  • 「業務報告書を提出してから60日以内に支払う」とする

企業が見直すべきポイント

 今回の勧告事例から分かるとおり、フリーランス新法では、単に契約書の形式を整えるだけではなく、発注から支払までの実務運用全体が法令に適合しているかが問われます。出版・広告・制作業界など、フリーランスとの取引が多い企業では、従来の業界慣行のままでは法違反となる可能性もあるため、次のようなポイントを改めて確認しておくことが重要です。

ポイント①発注時に取引条件を明確にしているか

 フリーランスに業務を依頼する際には、発注時点で取引条件を明確にし、書面やメールなどで相手方に示す必要があります。 特に、次のような運用になっていないかを確認することが重要です。

  • 作業開始後に発注書を出している
  • 報酬額を決めないまま業務を依頼している
  • 電話や口頭のみで業務を依頼している

 こうした運用は、取引条件の明示義務に違反するおそれがあります。発注書やメールによる発注内容の確認など、発注時の手続を社内ルールとして整理しておくことが重要です。

ポイント②支払期日の設定が法律に適合しているか

 報酬の支払期日については、成果物の納品や役務提供を受けた日から起算して、60日以内のできる限り短い期間内に設定し、その期日までに支払う必要があります。

 実務では、

  • 請求書発行日を基準に支払期日を設定している
  • 業務報告書の提出を基準としている
  • 検収手続が長期化している

 といった運用が見られることがありますが、これらの運用によって結果として支払が60日を超える場合には、法違反となる可能性があります。支払期日の起算点が「納品日・役務提供日」になっているかを確認することが重要です。

ポイント③社内の発注フロー・支払管理体制を見直す

 フリーランス新法への対応は、契約書の修正だけで完結するものではありません。発注担当者の運用、発注書の作成方法、支払管理の仕組みなど、社内の業務フロー全体が法律に適合しているかを確認する必要があります。

 今回の勧告事例は、従来の業界慣行の中で行われていた発注方法や支払方法が、そのままでは法令に適合しない可能性があることを示したものといえます。フリーランスとの取引が多い企業では、契約書や発注書の整備に加え、発注フローや支払管理体制についても一度点検しておくことが重要でしょう。

フリーランス新法対応は、実務点検から始まります

 今回の勧告事例からも分かるとおり、フリーランス新法への対応は、契約書の形式的な修正だけで完結するものではありません。発注方法、契約書の内容、支払期日の設定、検収手続など、発注から支払までの実務運用全体が法令に適合しているかが問われます。

 特に、出版・広告・制作などのコンテンツビジネス分野では、制作現場のスピード感や業界慣行を背景として、「まず作業を進めてもらい、条件は後から整理する」といった運用が行われていることも少なくありません。しかし、こうした従来の運用が、そのままではフリーランス新法の違反リスクにつながる可能性があります。

 弁護士法人かける法律事務所では、出版・広告・制作会社をはじめとするコンテンツビジネス分野において、フリーランス新法への対応に関するご相談を承っております。

  • 制作委託契約・業務委託契約のリーガルチェック
  • 発注フロー・支払フローの適法性点検
  • 取引条件の明示体制の整備
  • 社内研修の実施
  • 公正取引委員会対応のサポート

 「自社の発注方法が法律に適合しているか確認したい」「契約書や発注書の内容に問題がないか点検したい」といった段階からでもご相談いただけます。フリーランス新法への適切な対応を通じて、企業とクリエイター双方が安心して取引できる体制づくりを支援いたします。お気軽にお問い合わせください。

細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

弁護士紹介ページはこちら

CONTACT

お問合せ

まずはお気軽にお問合せください。
お問合せは無料です。

関連コラム