法律コラム

フリーランスに「無償の仕事」を依頼していませんか―体験レッスン無償実施の勧告事例から考えるフリーランス新法の注意点―

よくある相談

  1. 体験レッスンは営業活動の一環として行ってもらっているため、講師への報酬は支払っていません。フリーランス講師も同意していますが、問題はありますか?
  2. 新規受講者の募集のため、無料イベントや体験会をフリーランス講師に担当してもらうことがあります。通常レッスンでは報酬を支払っていますが、このようなイベントは無償でも問題ありませんか?
  3. 講師の知名度向上や生徒獲得につながるため、体験レッスンは講師側のメリットもあると考えています。このような場合でも、報酬を支払う必要がありますか?

勧告事例の概要

 2025年6月25日、公正取引委員会は、音楽教室事業を行う事業者に対し、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)に基づく勧告を行いました。

 問題となったのは、音楽教室におけるフリーランス講師との取引です。公正取引委員会の調査によれば、当該事業者は、フリーランスの講師に対して継続的に業務委託を行う中で、1か月以上の期間業務委託を行っている講師11名に対し、合計19回の体験レッスンを無償で実施させていました。

 体験レッスンは、音楽教室への入会を検討している受講者に対して行われるものであり、通常のレッスンと同様に講師が役務を提供するものです。このような体験レッスンを無償で実施させていたことについて、公正取引委員会は、フリーランス新法が禁止する「不当な経済上の利益の提供要請」に該当する行為と判断しました。

公正取引委員会による勧告事例の詳細は、こちら

違反行為の解説―不当な経済上の利益の提供要請―

 今回の勧告事例では、フリーランス新法における「不当な経済上の利益の提供要請」に該当する行為が問題となりました。

 フリーランス新法では、一定期間継続して業務委託を行う場合、発注事業者に対していくつかの禁止行為が定められています。その一つが、発注事業者がフリーランスに対して、自己のために不当に経済上の利益を提供させることを禁止する規定です。

 具体的には、発注事業者がフリーランスに対し、自社の事業のために役務やサービスを提供させながら、その対価を支払わないなど、フリーランスの利益を不当に害する行為がこれに該当します。

 今回の事例では、音楽教室の入会を検討している受講者に対して行われる体験レッスンを、フリーランス講師に無償で実施させていました。体験レッスンは、受講者の入会を促進するためのものであり、事業者の営業活動の一環といえます。そのため、公正取引委員会は、事業者の利益のために講師に役務提供をさせながら報酬を支払っていない点を問題視しました。

 このような行為は、フリーランスに対して自己のための経済上の利益を提供させるものであり、フリーランス新法が禁止する行為に該当すると判断されたのです。

 実務上、「体験レッスン」「プロモーション」「営業活動の一環」などの理由から、フリーランスに無償で協力を求めるケースが見られることがあります。しかし、発注事業者の事業活動のために役務を提供させている場合には、無償とすることが問題となる可能性があります。

 今回の勧告事例は、こうした「無償の協力」とされてきた業務についても、フリーランス新法の観点から見直しが必要であることを示したものといえるでしょう。

企業が注意すべきポイント

 今回の勧告事例は、フリーランスとの取引において、従来の業界慣行として行われてきた「無償の協力」が、フリーランス新法の下では問題となる可能性があることを示したものといえます。企業としては、次のような点を改めて確認しておくことが重要です。

ポイント①「無償業務」の位置づけを整理する

 フリーランスとの取引では、「営業活動の一環」「プロモーション」「体験サービス」などの理由から、無償での協力を求めるケースが見られることがあります。しかし、適切な対価のない役務提供を求める場合には、フリーランス新法上問題となる可能性があります。

例えば、

  • 体験レッスン
  • 無料イベントへの出演
  • 無料セミナーの実施
  • 無料トライアル制作

などは、事業者側の営業活動や顧客獲得に結びつく場合が多く、無償とすることが問題となる可能性があります。まずは、自社の取引において無償業務が存在していないかを確認することが重要です。

ポイント②フリーランスの同意があっても問題となる可能性がある

 注意すべき点は、フリーランス本人が無償での業務提供に同意している場合であっても、直ちに問題がないとはいえないという点です。

 フリーランス新法では、発注事業者とフリーランスとの取引において、発注事業者の優越的な立場を背景とした不当な取引が行われないよう、一定の行為が禁止されています。そのため、フリーランスが形式的に同意していたとしても、実質的に発注事業者の利益のために無償で役務を提供させていると評価される場合には、法違反と判断される可能性があります。「本人が納得しているから問題ない」「営業協力としてお願いしている」といった認識のまま無償業務を依頼している場合には、フリーランス新法の観点から問題となる可能性があるため注意が必要です。

ポイント③契約内容と実務運用を見直す

 フリーランスとの契約においては、どの業務に対して報酬が発生するのかを明確にしておく必要があります。体験サービスやプロモーション活動などについても、業務として実施するのであれば、契約書や発注内容の中でその位置づけを整理しておくことが重要です。

 特に、

  • 体験業務の報酬の有無
  • プロモーション業務の扱い
  • 無償協力の範囲

 などについては、契約内容と実務運用が一致しているかを確認しておく必要があります。

ポイント④発注実務全体を点検する

 フリーランス新法への対応は、契約書の整備だけで完結するものではありません。発注方法、業務内容の整理、報酬の設定、支払管理など、発注から支払までの実務運用全体が法令に適合しているかを確認する必要があります。

 今回の勧告事例は、従来の慣行として行われてきた取引方法であっても、フリーランス新法の観点から見直しが必要になる可能性があることを示したものといえます。フリーランスとの取引を行う企業は、自社の契約内容や発注フローについて、一度点検しておくことが重要でしょう。

フリーランス新法対応は、実務点検から始まります

 フリーランス新法への対応は、契約書の形式的な修正だけで完結するものではありません。無償業務の有無、体験サービスやプロモーション業務の位置づけ、報酬体系の設計など、発注から支払までの実務運用全体が法令に適合しているかを確認することが重要です。

 弁護士法人かける法律事務所では、音楽教室・教育事業をはじめ、広告・制作・コンテンツビジネスなどフリーランスとの取引が多い企業に向けて、フリーランス新法対応に関するご相談を承っております。

  • 業務委託契約・講師契約のリーガルチェック
  • 体験サービスやプロモーション業務の適法性点検
  • 発注フロー・報酬体系の見直し
  • 社内研修の実施
  • 公正取引委員会対応のサポート

 「自社の体験サービスやプロモーション業務が法令に適合しているか確認したい」「無償協力の運用が問題にならないか不安がある」といった段階からでもご相談いただけます。フリーランス新法への適切な対応を通じて、企業とフリーランス双方が安心して取引できる体制づくりを支援いたします。お気軽にお問い合わせください。

細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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