法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>名誉棄損の判断基準について、弁護士が詳しく解説します。

2022.12.22

飲食店の口コミサイト上で、自分のお店に対する誹謗中傷の書き込みがあり、それ以来、来客者の数が減っています。このままだとお店の経営に影響が出るので、投稿を削除したいのですが、可能でしょうか。

具体的な誹謗中傷の事実が書き込まれており、その投稿内容が事実に反するのであれば、削除が可能です。

1. 名誉棄損の違法性の判断枠組

 インターネット上の名誉棄損を理由に、投稿の削除や発信者の情報開示を求める場合、その投稿が違法なものである必要があります。

 そして、違法性の判断構造は、大きくいえば、以下のとおりとなります。

投稿が対象者の社会的評価を低下させるものか?

 まず、その投稿が、対象者の社会的評価を低下させるものであることが必要となります。投稿が社会的評価を低下させるものでない場合、名誉棄損とはなりません。社会的評価を低下させるものかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方を基準として判断されます。

違法性阻却事由が存在するかどうか?

 投稿が対象者の社会的評価を低下させるものであったとしても、以下の3つの要件を満たす場合、人身攻撃等論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性が阻却されます。違法性が阻却される場合も、削除請求や発信者情報開示請求は認められません。

  1. 摘示された事実が公共の利害に関する事実に係るものであること
  2. その目的が専ら公益を図ることにあること
  3. 摘示された事実の重要な部分が真実であること

 また、実務上、削除請求や発信者情報開示請求をする側が、これら①~③のいずれか1つでも満たさないことを主張し、証明しなければなりません。

 ここからは、これらの判断基準の中身について、より細かく解説していきたいと思います。

2. 社会的評価を低下させるものかどうかの判断基準は?

(1) 基本的な判断基準

 先ほど述べたように、名誉棄損に当たるには、投稿の内容が対象者の社会的評価を低下させるものでなければなりません。

 社会的評価を低下させるものかどうかについては、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方を基準として投稿内容を解釈し、判断されることになります。

 したがって、投稿者に対象者の社会的評価を低下させる意図がなかったとしても、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方からみて、それが社会的評価を低下させるものであれば、原則として名誉棄損になります。

 例えば、「メニューには国産と記載されているが、実際には産地を偽装している可能性が高い」 (飲食店の口コミ) 、「このホテルは衛生環境が悪く、大浴場の湯舟に汚物がたくさん浮かんでいた」 (ホテルの口コミ) といったような内容は、具体的な事実が摘示されており、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方からみて、飲食店やホテルの社会的評価を低下させるものといえるでしょう。

 また、社会的評価を低下させるかどうかは、問題となっている投稿自体だけでなく、投稿全体の内容や同じ発信者の他の投稿等も総合して判断されます。

(2) 「事実摘示型」と「意見論評型」

 名誉棄損には、大きく分けて「事実摘示型」と「意見論評型」があります。

 「事実摘示型」とは、例えば、上に挙げた例のように「産地を偽装している」「大浴場の湯舟に汚物がたくさん浮かんでいた」といったように、一定の事実を摘示するものであり、他方、「意見論評型」とは、「ここの料理はまずい」といったような、主観的な評価や意見の表明に当たるものです。

 一般に、投稿が事実が摘示するものであり、また、その摘示する事実が具体的であればあるほど、対象者の社会的評価を低下させるものと評価されやすく、また、摘示された事実が真実でないことを証明しやすくなるので、削除請求や発信者情報開示請求が認められやすくなります。なので、投稿が具体的な事実を摘示するものなのか、単に意見や論評を述べるにすぎないものなのかの区別は、とても重要です。投稿の削除や発信者情報を求める側としては、できる限り、投稿が具体的な事実を摘示していると主張することになります。

 このように、投稿が事実を摘示するものなのか、単に意見や論評にすぎないのかが重要となりますが、インターネット上の口コミ等においては、明確に区別しづらいものもあります。

(3) 具体例

 例えば、「このお店に行ったが、あまりにも不衛生な点が多い。このお店には絶対行かない方がいい。」という投稿について考えてみましょう。

一般の閲覧者からみてどのような摘示内容が読み取れるか

 先ほども述べたように、投稿が社会的評価を低下させるものかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方からみてどのような摘示内容が読み取れるかということが重要な基準となります。

 「このお店に行ったが、あまりにも不衛生な点が多い。」という内容をみたとき、具体的にどのような点で不衛生だったのかということは記載されていません。そのため、単に投稿者が不衛生な点が多いと思ったという意見を述べているにすぎない、という見方もありえないわけではありません。

 もっとも、「あまりにも不衛生な点が多い」と指摘するとき、一般の閲覧者からみて、例えば、店内が全体的に汚い、食べ物に髪の毛やゴミが入っていた、お金を触った点でそのまま食材やお皿を触っている、虫がいる等、ある程度具体的な内容を想起することもできます。その意味では、単に投稿者の主観を述べているものではなく、多少抽象的でありますが、お店の衛生環境について、一定の事実を摘示しているものといえます。

 また、飲食店における衛生環境は、一般に、お店で飲食をする一般消費者が非常に重要視する事柄の一つであり、「汚いお店には行きたくない」と考える一般消費者は多いといえます。

 また、「あまりにも」という修飾語が不衛生さを際立たせる表現になっており「~不衛生な点が多い。」という断定的な表現も、読み手に対して、単に個人の感想を述べたものではないという印象を与えるものです。

 以上のことからすれば、「このお店に行ったが、あまりにも不衛生な点が多い。」という表現は、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方からみて、飲食店の衛生環境に対して事実を摘示するものであり、飲食店の社会的評価を低下させるものと評価されることになるでしょう。

 一方、「このお店には絶対行かない方がいい。」という部分はどうでしょうか。素直にこの部分だけを切り取ってみれば、「自分はこのお店には絶対行かない方がいいと思う」という内容を読み取ることができ、投稿者の意見を述べているにすぎないようにも思われます。

 もっとも、さきほども述べましたが、名誉棄損の判断においては、問題となっている投稿それ自体だけでなく、投稿全体の内容や同じ発信者の他の投稿等も総合して判断されます。

 そのため、「このお店に行ったが、あまりにも不衛生な点が多い。」という投稿と合わせて考えると、「このお店は、絶対行かない方がいいといえるくらいに不衛生な環境である」という事実を摘示しているものと見る余地もあるでしょう。

証拠等によって存否を決することができる性質の事実かどうか

 摘示された事実が証拠等によって存否を決することができる性質のものかどうかも、重要な基準となります。飲食店に「不衛生な点が多い」かどうかは、実際のお店の中の様子を撮った写真や動画、食材の管理状況、衛生管理のチェックについての点検記録、不衛生を理由とする過去のクレームの有無等によって、ある程度判断することができます。このような観点からも、「あまりにも不衛生な点が多い」という投稿は、衛生環境について事実を摘示しているものと評価されることになるでしょう。

3. 違法性阻却事由について

 上に述べたように、ある投稿が対象者の社会的評価を低下させるものであるとしても、削除や発信者情報開示を請求する側が、その投稿について、①公共の利害に関する事実であること (公共利害性) 、②その目的が公益を図る目的であること (公益目的) 、③摘示された事実の重要な部分が真実であること (真実性) のいずれかを満たさないことを証明しなければ、名誉棄損を理由とする削除請求や発信者情報開示請求が認めらないのが一般的な実務上のルールです。

公共利害、公益目的について

 個人 (政治家や有名人は除く) に対する誹謗中傷の場合は、公共利害性・公益目的が認められないことが多いですが、口コミサイト上の飲食店に対する口コミについては、口コミサイトがユーザーに広く情報を伝えるための手段であるということで、公共利害性・公益目的が肯定されることが多いでしょう。

 もっとも、投稿内容があまりにひどい罵詈雑言に満ち溢れ、情報伝達の域を超えている場合には、公共利害性・公益目的が否定されることもあります。

真実性の判断 (反真実の証明) について

 反真実性の証明については、削除や発信者情報開示を求める側が、証拠を提出して、投稿された内容が事実に反することの証明をすることになります。どの程度証明しすればよいかは手続によって異なり、仮処分手続であれば疎明 (一応の証明) で足りますが、訴訟手続であれば、裁判官に反真実を確信させる程度の証明が必要となります。

 「このお店に行ったが、あまりにも不衛生な点が多い。」という先ほどの例で考えると、実際のお店の中の様子を撮った写真や動画、食材の管理状況等によって、一般的な基準からみて、大きな不衛生はないということを疎明 (訴訟手続であれば証明) することになります。

4. ポイント

  1. 名誉棄損の違法性の判断は、投稿が対象者の社会的評価を低下させるものか、仮に社会的評価を低下させるものであるとしても、違法性阻却事由があるかどうか、という2段階の判断枠組になっています。
  2. 名誉棄損には「事実摘示型」と「意見論評型」があり、具体的な事実の摘示がなされていれば名誉棄損に当たりやすいといえます。
  3. 投稿の削除や発信者情報の開示を求める側が、違法性阻却事由がないこと (投稿された内容が真実に反すること) を主張・証明しなければなりません。

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